クロニクル·レギオン 5 騒乱の皇都
この本は縦書きでレイアウトされています。
目次
序 章
第一章 密約
第二章 魔人覚醒
第三章 皇都の軍神たち
第四章 夷を征す者
第五章 騒乱の萌芽
第六章 女皇、乱心
終 章
ダッシュエックス文庫DIGITAL
クロニクル・レギオン5
騒乱の皇都
丈月 城
序章
天龍五八年、一二月三日。
数分ほど前に時計の針が午前零時を差して、日付は変わった。
深夜である。だが、箱根第二鎮守府・朱雀門の武道場に皇女志緒理と、その騎士である橘征継・初音、そして〝皇女殿下の指南役〟竜胆先生が集まっている。
兵たちが武術の稽古に励むための場所。
指南される内容は日本古来の柔術、空手、拳法、剣術をはじめ、槍術をベースとする銃剣術などである。
だからだろう。二〇世紀も末だというのに木造建築・板の間の武道場だった。
しかし、そのおかげで――奇妙な格好をした今宵の客人もまったく浮いていない。
なんといっても、彼は僧形なのである。白木の杖と編み笠まで持参している。時代劇の世界から抜け出てきたような風体なのだ。
僧形の人物はひどく瘦せている。しかも、かなりの老齢だ。
その名も《明智十兵衛光秀》。またの名は天海だと、本人が申告していた。
「我が主……神君家康公は隠居の身」
明智光秀ないし天海僧正が言う。
「表舞台に出てくるつもりなど、とっくに捨てておられる……。が、どうしても皇女殿下が神君との対面を望まれるのであれば、まあ」
徳川家康とその腹心・天海僧正こと明智光秀。
彼らこそが橘征継の記憶を奪った仕掛け人であると竜胆先生から聞かされて、皇女志緒理は是非お目にかかりたいと即座に言った。
その日の夜、瘦せた老僧がふらりとやってきたのである。
「居場所をお教えしてもかまわない。そのように命じられて、拙僧は参った次第で……」
「ならば、わたくしの都合がつき次第、すぐにうかがわせていただきます」
志緒理は即座に答えた。
「やはり……皇都の何処かにお住まいなのですか?」
「左様でござる。さすが殿下は話がお早い。拙僧の言うことがなくなり申した」
にたりと天海僧正が笑った。