にこは神様に○○(ナニ)される?
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にこは神さまに○ナ○ニされる?
荒川 工
イラスト ことみようじ
目次
神さま現わる。
神さま学校とやらへ行く。
にこは神さまに○ナ○ニされた?
*
あとがき
ⅰ.
夏の終わりに、蟬が声を限りに鳴いていた。
柿の木の肌にただ一匹がぽつんと。
季節に置き去りにされまいと必死に呼び止めるように。
しかし、木枝を揺らす風の冷たさは、確かに秋の気配を孕んでいる。
それでも蟬は鳴いていた。
(今のわたしは、たぶんあんなふうに滑稽なのだわ)
蟬がソロ時雨を奏でる庭の木を、開いた窓から眺めて栗下にこはそう思った。
〝にこ〟という名にもかかわらず、滅多に心から笑うことのない少女。
大っ嫌いな懐かしさとほんの少しの悲しさに満ちた離れの家、今はもう亡き父が使っていた小屋。そこで、掃除機片手に佇んでいる。
しかし掃除機のスイッチはオフのまま。
にこの『掃除を続けよう』という心のスイッチがなかなかオンにならないから。
眼鏡のブリッジを中指でくいっと上げて、気分を変えようとするけど上手くいかない。
「はあ……」
この離れの掃除は、にことその祖父の真行が持ち回りで定期的に行っている。
「なんでこんな日にわたしが掃除を……あいつはどこまで間が悪いのかしら……」
そう、今日はいかにもタイミングが悪かった。
なぜなら、本日は父の命日。しかも、初めての。
とはいえ、父の死を家族は確認したわけでも、ましてや葬儀を済ませたわけでもない。
にこたちだけに限らず、父本人と恐らくもう一人の誰か以外は彼の生死を知らない。
父、古原舞久は七年前、にこが七つの誕生日を迎える直前に失踪した。
夫婦仲も円満、というか周囲を『あらまあやだもうこのバカ夫婦♡!』と赤面せしめるホッテストなものだったし、それなりの由緒と氏子に支えられた安国神社の跡取り宮司として信頼も勝ち得ていた。
加えてにこ、その妹の沙梨という二人の娘に恵まれるわ、これで幸せでなければあらゆる辞書の『幸せ』の項に全改訂が必要だろうに。
嗚呼でもしかし。
『捜さないでください。きっと戻ってきます』
──と書かれた手紙と、なぜ? と長い間にこが幾度も抱いて解けずにいた疑問だけを遺して彼は姿を消した。
そして捜索願