どろぼうの名人2サイドストーリー いたいけな主人
小学館eBooks〈立ち読み版〉
いたいけな主人
どろぼうの名人サイドストーリー
中里十
イラスト しめ子
目次
誰もが私のように振る舞うなんてことはあり得ないからご心配なく
教育において最悪の危険は、物事のかわりに言葉を教えてしまうことである。
問──あなたがいちばん許せる悪徳は? 答──軽信
自分自身を嫌っていた人が、はたして、だれかを愛したりするものでしょうか?
彼の共産主義に対する確信は、彼を戦術においては驚くほど柔軟にさせた。
永遠のワタシ 永遠の他人
ひとつのことしか目に入らない人間は、危険な人間です。
誰かが痒いところを掻いたとすれば、それは進歩と見なされるべきなのだろうか。
王子様、おうじさま、あー、あなたは美しい、けっこんして下さい。
僕の身体を 天使の姿が 見えないようにしてほしい
あとがき
更紗へ
登場人物
波多野陸子……千葉国王。二十一歳。女子中学生が好き。
設楽光…………陸子の護衛。二十三歳。陸子が好き。
平石緋沙子……国王公邸のメイド。十五歳。陸子の愛人。
橋本美園………国王公邸のメイドの長。二十七歳。
まだ、夏だった。
私は陛下のご実家にお迎えにあがっていた。陛下の夏休みは今日で終わり、さっそく今夜から予定が入っている。独経会の国王記念セミナー二十周年レセプション。夏休み明けの初めての公の場なので、テレビカメラも入っている。が、ほかにはこれといってデリケートな要素もなく、気楽な仕事だった。当たり障りのない短いスピーチをして、会食するだけだ。
私が参上したとき、陛下は外出なさっていた。財団の警護担当者は、異状ないとのこと。私は客間で、丁寧に造園された庭を眺めながら、陛下のご帰宅を待っていた。
午後、日はまだ高く、室内にはあまり差し込んでこない。それよりも、芝生からの照り返しのほうが、体感温度を上げている。私の上着はチャコールグレイのジャケットだから、なおさらだ。
やがて物音がして、陛下のご帰宅が知れた。その直後に、客間のドアが開き、
「ひかるちゃーん! 会いたかったよっっっ!」
と、もったいないほどのご心情をこめて、陛下がお声をかけてくださった。
「恐縮の極み