偽る神のスナイパー
小学館eBooks
偽る神のスナイパー
水野 昴
イラスト まごまご
目次
OP/Scars ‐疵痕‐
01/Revenant ‐骸者‐
02/Distortion ‐歪音‐
03/Illusion ‐幻影‐
04/Sniper ‐射手‐
EP/Stars ‐星空‐
OP/Scars ‐疵痕‐
亀裂に覆われ沈下したアスファルトと、溶け落ちた建材の断面から錆びた鉄骨を骨のごとく覗かせた建造物だけが建ち並ぶ廃墟──それは、生命の絶えた滅びの景観だ。
鈍色の空の下、高度七〇メートルもの廃ビルの屋上から、少年は無惨な戦場を眼下に望む。
その面立ちに、あどけなさを色濃く残す少年──円マドカ吹スイ芽ガが立射の姿勢で構えている銃器は、艶のない黒塗りの狙撃銃スナイパーライフルだった。ボルトアクション・M24‐ARカスタムの長大で無骨なシルエットは、吹芽の小柄な体にはあまりに不釣り合いである。
スコープの拡大映像と肉眼とを切り替えつつ、吹芽は索敵の結果を地上の仲間たちに伝達することに余念がない。
そんな彼の背後からは、恐怖に怯えた幼い子供たちのすすり泣く声が、今も絶えることなく響き続けている。
つい数十分前、この廃墟から救出した六人の幼い子供たちは、小さな体を寄せ合いながら、吹芽の背中をじっと見つめていた。皆一様に薄汚れ、傷付き、やせ細っていた。その乾いた瞳からは子供らしい輝きなどとうに失せ、今はほの暗い悲壮感が澱のように貼り付いている。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
背後からおずおずと声をかけられ、吹芽はスコープから右目を離して振り向いた。
「私たちの仲間が──ハルが、まだ街のどこかに残ってるの……」
年長者らしい七歳程度の女の子が、目の端に涙を溜めながら、吹芽の服を掴んでいた。吹芽は愕然と息を呑み、女の子の顔を覗き込んでねる。
「──この区域の生存者は君たち六人だけだって、さっき言っていたじゃないか」
「私がね、皆に黙っててって言ったの。……ひとりを助けようとしたら、そのせいで全員が死んじゃうかもしれないから……」
吹芽は言葉を失った。吹芽の半分にも満たない歳の子供が、こんなにも残酷な決断を下した事実に。この地獄のような世界の片隅で生き延びるには、涙を呑んでわずかな可能性を切り捨てる非情さこそが、何よりも不可欠だったの