魔法医師の診療記録3
小学館eBooks〈立ち読み版〉
魔法医師メデイサン・ドウ・マージの診療記録3
手代木正太郎
イラスト ニリツ
目次
序章〈悪夢館〉
第一章〈悪夢館の招き〉
第二章〈悪夢館の恐怖〉
第三章〈悪夢館の怪〉
第四章〈悪夢館の謎〉
第五章〈悪夢館の崩壊〉
終章〈夢から覚めて〉
序章〈悪夢館〉
〈悪夢館〉が、その不気味な名で呼ばれるようになったのには理由がある。
この館が建てられたのは、二百年前──恐ろしいペストの大流行が国を襲った時のことだ。
とある芸術家気取りの不良貴族がペスト禍を避け、世俗を離れ閉じ籠り、悠々自適の芸術生活を送ろうと、ありあまる金に任せるまま己の領地内にこの館を建てたのである。
不良貴族は、美女十数人、美少年十数人、そして彼のお気に入りの画家、詩人、音楽家とともにペスト禍の過ぎ去るその日まで、この館で引き籠り生活を始めたのだった。
現世から隔絶されたその生活が、淫靡かつ放埓で、背徳的であったのは、言うまでもない。
だが、ペスト禍の去るその前に、この館に集まった人間の全てが姿を消すこととなった。
一人残らず死に絶えたのである。
何があったのかは二百年の歳月の向こうに霞み、一部残された日記などから推測するしかない。
断片的にわかることは、住人の幾人かが悪夢を繰り返し見るようになり、精神衰弱の中、正気を失い錯乱し、互いに殺し合いを始めたということである。
日記には、とある伝説上の魔物の名が幾度も登場した。
──夢魔ナイトメア。人に悪夢を見せ、正気を奪う妖物モンストルの名である。
以来、この館の住人はナイトメアに憑り殺されたのだという怪談めいた噂がまことしやかに広まり、この館は〈悪夢館〉の名で呼ばれるようになったのであった。
その後、大小の戦があり、この悪夢館の建つ土地の領主が数度変わることとなる。
いつしか、この悪夢館はヴォーカンソンという豪商の一族が買い取り、別荘として使用するようになった。しかし、これもまた悪夢館の呪いであろうか。悪夢館を所有し始めた途端に、そのヴォーカンソン家が跡継ぎに恵まれなくなったのである。
女子ばかりが生まれ、他家に嫁いで行き、男子が生まれても夭逝することが幾世代にも