我がヒーローのための絶対悪3
小学館eBooks〈立ち読み版〉
我がヒーローのための絶対悪アルケマルス 3
大泉 貴
イラスト おぐち
目次
第一章 砕ける仮面
第二章 正義を照らす白き月光
第三章 誰がための絶対悪
第四章 スタンド・バイ・ミー
終章
あとがき
ヒストリーⅠ
すべての物事には始まりがあり、そして終わりがある。
もしも沖名武尊の物語に始まりがあるとすれば、きっと彼は幼き日のある記憶をすぐに思い起こすだろう。その記憶は天羽ミアとの関係の始まりでもあった。
天羽ミア。栗色の髪に、深い海のように蒼い瞳を宿した、とても泣き虫な女の子。そして武尊にとってかけがえのない幼なじみ。
多くの幼なじみがそうであるように、武尊とミアもまた物心がついた頃から隣にいて、一緒にいるのが当たり前のようになっていた。
それは武尊の父とミアの父が親友同士であったことも関係しているのかもしれない。とにかく武尊の記憶にあるミアはいつも武尊の後ろをついて歩いていた。
ミアは引っ込み思案で、周りからからかわれ、いじめられ、いつもひとりぼっちだった。だから武尊といつも一緒にいたがった。
タケちゃん、タケちゃん、タケちゃん。
不安そうな顔で袖を引っ張るミアを見るたび、武尊はミアを守らなければならないという使命感を強くしていた。この頃の武尊にとってのミアは家族のような存在で、家族なのだから守るのが当たり前なのだと信じ込んでいた。
あの日の夜までは。
「ミアが、ミアがまだ帰ってこないの。タケちゃん、きょうは帰り一緒じゃなかったの?」
武尊が小学四年生のある日、ミアのママンが泣きそうな顔で武尊の家を訪ねてきた。
いつも登下校をともにしていた武尊とミアはその日に限り、些細なことでケンカをしてしまい、武尊だけが先に家へと帰っていた。
ケンカの原因は、ユキタローというウサギである。
当時、小学校の飼育小屋で大切に飼われていたその白ウサギを、飼育係だったミアはとても可愛がっていた。そのユキタローが突然、飼育小屋からいなくなったのだ。
小屋の近くには抜け穴ができており、教師も生徒たちも、ユキタローはその穴から脱走したのではないかと話した。だが、ミアだけは顔を真っ青にしてつぶやいた。