クラウン·フリント4 さよなら、カレン
小学館eBooks〈立ち読み版〉
クラウン・フリント4
さよなら、カレン
三上康明
イラスト 純 珪一
目次
序章 午前三時の微睡み
第1章 大きな荷物と小さな背中
第2章 選べ、とその人は言った
第3章 約束
第4章 僕らの希望
終章 恋の行方
あとがき
大人と子どもの境界線はどこにあるのだろう。
そもそも、そんなことを考えている僕が子どもなのか。
「晶、大人になるためには、つらさに耐えていかなくちゃいけないよ」
聡明なる僕の兄は、かつてこう言った。
「大人は強い存在だと考えるのは、ある意味正しい。けれど裏を返すとこうとも言える。大人になれば、つらいことが多くなる。つらさに耐える強さが必要だ、と」
そんな未来……いやだ。だったら子どものままのほうがいいじゃないか。
「なあ、晶。どうして大人になるとつらいことが増えるか、わかるか?」
わからない。
「人間は生きていく上でたくさんのものを手に入れる。友だち、恋人、お金、夢、知識、感情。でもな、持てる数には限りがある。やがてお前は決断しなくちゃいけなくなる」
決断?
「失う決断だ。新たなものを手に入れるためになにかを捨てる。……大人になるっていうのは、手に入れるために失うことを、いとわないことじゃないかと思う」
…………。
「む、つまらない話をしたか」
僕は首を横に振った。
そうじゃない。そうじゃないんだ。
兄は黙って僕の頭をなでた。
そのころ兄は、もう父のあとを追って医師になる決意をしていた。そのことがいろいろなものを失う結果につながると兄は知っていたのに。なぜなら大学病院で権力闘争に明けくれている父は、僕ら家族を顧みなかったから。
「なんだ、晶は俺が『お医者様』になるのに反対か?」
兄に、父のようになってほしくなかった。
「医者にだっていいところはいっぱいあるんだ。職業で人を差別するな」
そう言った兄は、理性でいろいろなことを理解していたのだろう。そして、いつだって兄は理屈で僕に説明した。
兄の感情はどこにあったのだろうか。
感情を理屈で説きふせられるようになるのも、大人になる条件なのか。
理屈でもって理解することが、こ