スプリング·タイム
小学館eBooks
スプリング・タイム
蕪木統文
イラスト オサム
目次
エクソダス・タイム
リユニオン・タイム
フレンドリ・タイム
ローリング・タイム
スプリング・タイム
顎が灼熱化するや、水戸部尚太の視野には、街灯が爆ぜ返る歩道が映り込んでいた。
わけがわからない。
いや、自分が〝どうなっているか〟は、ちゃんと理解できていた。片手に握るコンビニ袋を宙に大きくテイクバックさせつつ、湿ったアスファルトに転倒しかけているのだ。わけがわからないのは──唐突に──そのようなポーズとなっている〝理由〟だった。
「なんだ」
見知らぬ拳がヒットした顎が、熱く、痛い。
「な、なんなんだっ」なんで俺は殴られたんだ!?
銀河の星々を眺めているかのような輝きが、尚太の真正面に拡がる。
足元のアスファルトはずいぶんと水はけが悪く、夕立の名残もそのままに、そこかしこにミリ単位の水位の人工池が連なっている。それら──つまり歩道全体──に街灯が乱反射して、銀河の星々さながらの輝きが生み出されているのだ。
行く先々が道路の補修工事のために行き止まりとなっていて、舌打ちが癖になりかけたのは、クリスマス前後のことか──尚太は、ふと、場違いなことを思った──この一帯は年末の工事区画から外されていたのかもしれない。
眼前の星々が勢いよく流れる。
水飛沫とともにスニーカーがサイドステップよろしく横滑りしていた。
だが、靴裏が滑って体勢がさらに崩れたことは結果的には幸運だったのだろう。流線とともに真横から迫った足先は、尚太のシャツの裾を蹴り上げただけだった。横滑りしていなかったら、脇腹に蹴りをくらっていたところだ。
「ふたりかよ!?」正面と横にいるのか、どこのどいつらなんだよ。俺はクラスのどの顔とも接点は薄いし、部活動もしていないから友達も少なくて、闇討ちされるような覚えは、ほとんど、たぶん、ないぞ。
ここに来る途中で恨まれるようなことも何もしていない──高架下の駐輪場に置きっぱなしだった自転車を取りに行こうと、コンビニに寄りがてら、公園をただ横切っただけで──。
それともカツアゲなのか、おいおい、カーゴパンツにワークシャツ、素足にスニーカーのこんな身なりで金を持っているように見えるのかよ。
半ば転がるように歩道を滑って、尚太は、ご