クラウン·フリント レンズと僕と死者の声
小学館eBooks
クラウン・フリント
レンズと僕と死者の声
三上康明
イラスト 純 珪一
目次
序章 迫る危機とネコの話
第1章 10年前に死んだ、と君は言う
第2章 過去を語るのにふさわしい夜
第3章 跳べ!
第4章 月とカメラと殺人鬼
終章 レンズの生まれた日に
あとがき──という名の放課後、教室にて
上から巨大な岩が落ちてきたら、人間は一般的にどんな反応をするだろう──そんなことを実験したテレビ番組があった。マンガや映画では、主人公はヒロインを抱えて横っ飛びして難なく逃れるだろう? でも実際は違う。その実験では、見た目は岩の発泡スチロールを上から落とした。すると十人中十人がその場で立ちすくんだ。びくっと身体を縮こませる、両手で頭を抱える、目をつぶって伏せる……等々。でもこれが猫の場合だと違った結果になる。猫はひらりと跳んでかわす。恐るべき動物の反応。
それで、なぜ僕がこんな話をするのかと言えば──僕は今悩んでいるからだ。僕の危機対処能力が、他人より著しく劣っているのではないか? とね。
僕のいるこの部屋は、東京都からさほど離れていない(と地元民が熱心に主張する程度の微妙な距離にある)県立高校。名前を「護稜高校」という。現在は夕方の四時三十二分。そしてこの部屋は──僕がこの世で一番嫌う「カメラ」を扱う写真部の部室である。
部屋の中央に僕はいる。いる、というより、ほおで床の固さを感じている。僕は床に、うつぶせになっていた。右ほおは床、そして左ほおには──ローファーの靴底。
僕は、踏まれていた。
見たことのない制服。ワインレッドのセーラー服を着た少女。
「……あ、踏んでた」
少女はそう言って、足をどけた──。
僕がこの部屋に入ってからおよそ三分弱。言っておくが僕は少女に足蹴にされる趣味もなければ他人から暴力を受ける心当たりもない。
僕の身にいったいなにが起きた? そしてこいつは何者だ?
誰もいなかったはずの写真部に僕は入り、大嫌いなカメラを手にし、気づけば少女に踏まれていた。すべての事柄は一連の出来事であるのに、まったくつながりがない。
僕はこの身に起きている、危機とも不可思議とも判断しかねる事態に対処しきれていない。これは危機対処能力が低いということなのだろうか? 猫ならば軽々とかわせるような