都市伝説系彼女。~永遠子さん救済倶楽部~
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もくじ
序章
第一話 カシマさんが奪うモノ
第二話 メリーさんの長電話
第三話 ひとりコックリさん
第四話 倉庫の声
第五話 凍える五人目
終章
ダッシュエックス文庫DIGITAL
都市伝説系彼女。
~永遠子さん救済倶楽部~
おかざき登
序章
学校の前庭に桜の木を植える意義はなんだろう。
桜といえば、卒業や入学の象徴だ。しかし、本州のかなり北の方に位置するこの高校では、例年、卒業式はもちろん、入学式――つまり、今日にも、満開は間に合わない。
事実、僕が今見上げている桜も、贔屓目で見ても五分咲きがいいところだった。
だったら、もう少し早く咲く木を植えればいいのに。
桜にこだわらなくても、卒業式か入学式を満開で彩ってくれた方がいいだろうに。
間に合わない桜だって立つ瀬がないし、その方が合理的だ。
でも――、
桜に目が行かなかったのはそのせいだ、と言うつもりはない。
僕が、彼女の長い黒髪に目を奪われてしまったのは。
一歩ごとに揺れる髪が、春の陽を受けて、まるで宝石を撒き散らしているようにキラキラと輝いている。
仮に桜がベストコンディションで満開だったとしても、きっと、結果は変わらなかったはずだ。
むしろ、降るように舞い散る花びらに彩られて、周囲の桜色に映えて、彼女の黒髪はもっともっと強烈に僕の目を惹きつけたことだろう。
だから、彼女を見ていたから、気がついた。
彼女のカバンから、銀色に光る何かがぽとりと落ちたことに。
「あ」
しかし、彼女はそれに気づかず、なぜか校舎の裏手へと向かってどんどん進んでいく。
「ちょっと、君!」
名前も知らない彼女に、僕はそう声をかけた。
それでも、彼女は振り向いてもくれない。
ああ、もう!
僕は眼鏡の位置を直しつつ、落ちた何かへ歩み寄って、それ――キーホルダーか何かだろうか? それにしては精巧な模様が彫り込まれた、銀色の小さな十字架だった――を拾い上げた。
そして、彼女の背中を追いかけた。
「ねえ、君! ちょっと待って!」
それでも反応がないので、やむを得ずに「ねえ