三つの塔の物語
口絵・本文イラスト/藤ちょこ
口絵・本文デザイン/濱祐斗デザイン事務所
目次
序章
第一章 「奪われたもの」
第二章 「王都」
第三章 「出会い」
序章1
「どうだ? アレの様子は」
「いつもと変わらず静かなものですよ」
老いた男が真剣に問い、中年の男が気楽に答える。
そこは暗い場所。昼も夜もかわらずに闇が存在する場所。岩と土に囲まれ若干息苦しい場所。すなわち洞窟。男たちがそれぞれランタンを持ち、最深部へと向かう。老人の足取りは決して快調と呼べるものではない。
最深部にあるものが良いものではないとわかっているためだ。行きたくないと思っているが、定期的に訪れなければならない。それが老人に課せられた仕事なのだ。
憂鬱な思いを抱いた老人は中年の男の気楽さに首を傾げる。中年の男にもこの先にあるものはわかっているはずなのだ。それなのにどうして気楽でいられるのか、それが常々疑問だった。
その疑問を晴らすため以前聞いたことがある。その答えは「自分鈍いですから」というもので、具体性に欠けるものだった。
鈍いというだけでここまで気楽になれるものなのかと思わずにはいられず、けれど自分にもその鈍さがほしかったとも思う。
そんなことを思っているうちに二人は最深部に到着した。
最深部は家一軒入るほどの広間になっており、その中央に幅二メートル弱、高さは三メートルに届こうかという縦長の岩がある。生あるものを拒否するような雰囲気を放ち、何度きても老人は慣れることなく足を止めてしまう。
岩の雰囲気を察したか、このような洞窟にいそうな虫はこの場にはいない。当然獣の類もだ。
ここが死の世界の入口と言われても老人はなんの疑問も抱かずに頷くだろう。
「もっと近づかないと」
顔を顰めた老人を促して中年の男は軽い足取りで岩に近づく。
はあっと大きく溜息を吐いた老人は対照的に重い足取りで岩に近づきランタンで照らす。
表面には解読不可能な文字が刻まれている。幾度か研究者にこの文字を見せたが、解読できなかったため文字に見えるだけの紋様ではないかと誰もが考えている。
「静かすぎて封印されているものがいることなど忘れそうになりますね」
「たしかにな。だが忘れてはならぬ」
「わかってます。ここ