遠野誉の妖怪騒動記2
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口絵・本文イラスト/しきみ
デザイン/ムシカゴグラフィクス
第一話
1
「あ、おはようさん、お兄はん」
朝、洗面所で顔を洗ってから僕──遠野誉が食堂に入ると、二十人は囲める大きな楕円形のテーブルに皿を用意している、明るい茶色の髪の少女が言った。
彼女は澄んだ泉のような青い瞳を僕に向けて、優しく笑っている。
そんな少女の外見において特筆すべきはその衣装だろう。
着用しているのは黒いワンピースに、フリルのついた白いエプロンドレス、そして頭にはこれまた同じくフリルのついたカチューシャという、いわゆるメイド服というやつだ。
それもメイド喫茶などで着られているようなコスプレ然としたものでは無く、仕立てのいい本格的なものであることが一目でわかる。
見るからに西洋人な彼女の美貌も相まって、それがすさまじく似合っていた。
「おはようセシル」
「もうすぐ朝ご飯できるしなあ」
僕がセシルとそう呼んだ少女は、この家で共に暮らす僕の妹──のようなものだ。
のようなもの、という言葉通り実際には妹では無いのだが、その詳細はもう少し後で説明しよう。
「……他の二人は?」
僕があくびを嚙み殺しながらこの場にいない面子について尋ねると、セシルは首をふるふると横に振った。
「まだ姿見せへんのよ、お兄はん呼んできてくれる?」
「OK、分かった」
セシルに言われてうなずいた僕は食堂を出て、さてどこに行こうかと彼女たちのいる場所を予想しながら、二階へと続く大階段のある玄関ホールに出た。
するとそこでは数本のモップが独りでに踊るようにして、石材が淡い色調の市松模様を描く床を磨いている。さらには布が宙を舞って階段の手すりを拭き、僕の知らない間に置かれていた観葉植物にフワフワと浮かんだ霧吹きが水やりをしていた。
しかしそれらを触っているものは誰もいない。
まさに怪奇現象であるが、とはいえそんな光景ももはや慣れたもので、僕が驚くことは無い。それどころかうちの家は大きな洋館なので、こうして用具によって掃除が勝手に行われているのはむしろありがたいことだった。
忙しく働く掃除用具たちを横目で眺めながら、僕がまず向かったのは中庭だ。
うちの中庭の中央あたりには大きな木が植え