イノセントレッド 2.彼は受け入れる闇の王
口絵・本文イラスト/滝本祥子
デザイン/團夢見(イメージジャック)
第1章 竜狐相搏つ・その2
次元を隔てた向こう側に、法則や歴史の異なる世界があることを知る人間は、他世界交流の乏しい世界──たとえば地球にはほとんどいない。
だが、そうでない世界に生きる人々にとっての、常識と化した言葉がある。
『異世界転生』──生命が別世界に生まれ変わり、その魂に最適の器を得て強力な力を発揮する一連の事象を示す共通用語だ。さらにその対象者を『異世界転生者』と呼ぶ。
転生者となった者は、ほぼ例外なく前世の記憶を持ち、新たな命を得た瞬間から自らに最適の未来を選択していくようになる。その多くが力を人々のために使おうと戦場へ赴いたのは、己の転生した意味をそこに見出していたためだ。
だが、転生者が隆盛を極めたのはあくまで過去の話である。数の少ない現在においてはその存在自体が貴重とされ、実力以上の利権を与えられるようになっていた。
転生者の減少の原因はほかでもない。
『紅の破壊神』によって、彼らのおよそ九割九分が滅ぼされてしまったからだ。
世界同士の間にあった、微かな裂け目を見つけて通り抜けない限り、向こう側に別世界があるなどと認識すらさせない概念的な障壁。それをある日突然破り現れたのが、すべての世界を滅ぼさんと活動を開始した紅の破壊神。圧倒的な力で数多の世界を破壊し、最後には『勇者の世界』に生まれた異世界転生者によって討滅された。それは蹂躙されてきた世界が、数えきれぬ犠牲のうえにようやく摑みとった真の自由であったのだ。
だが、倒したはずの紅の破壊神が異世界転生を果たすと想定できていた者など、限られていたに違いない。
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真田辰季は、八方生市に住む高校二年生である。一人暮らしで彼女なし。身長は一六歳男児の平均、幼さを残す顔立ちに黒い髪、ちょっと運が悪く事故や事件に巻き込まれやすいというだけの、それほど変わったところのない少年だ。
しかしその異質さは内面にあった。彼はかつて多くの世界を混沌に陥れた全次元最強の神、紅の破壊神の生まれ変わりなのだ。
破壊の限りを尽くしきる一歩手前でその命を絶たれたものの、異世界転生を果たし、当時の記憶を維持したまま人間として新たな生を得た。ところが、その肉体と魂の相性が最悪