神鎧猟機ブリガンド 4
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目次
序章
第一章
第二章
第三章
第四章
終章
ダッシュエックス文庫DIGITAL
神鎧猟機ブリガンド4
榊 一郎
序章
まるで宝石箱をひっくり返したかの様な眺めだった。
満天の星が頭上で瞬いている。
紫織は空を仰いで眼を輝かせていた。見ているだけで楽しい。星空がそこに在る事が嬉しい。小さな手を精一杯伸ばせば、あの綺麗な星空に届くかの様な気がした。
「えへへ」
自然に顔が綻んでくる。
夜に外に出て空を見上げていると、それだけで何だかドキドキする。それが住み慣れた我が家のベランダからでも……まるで特別な場所に来たかの様に思えた。いつもはもう布団に入って寝ている時間だから、尚更である。
紫織の傍らには、紫織の背丈と同じくらいの大きな――彼女の感覚からすれば――天体望遠鏡があった。ピカピカに磨かれた真新しいそれは、やはり特別で格好良い。紫織が普段触れている様な玩具ではなく、本当の、本物の道具。何がどうと上手くは言えないが凄く『オトナ』な感じがした。
「おねえちゃん、きれいだね!」
紫織は隣の姉のほうに笑顔を向けた。
「そうね。綺麗だよね」
姉は優しく微笑んで紫織の髪を撫でてくれた。
白くしなやかな指先がショートカットの髪を弄りながら滑り落ちていく。それが気持ちよくて紫織は眼を細めた。
姉は綺麗で、優しくて、頭も良くて、何でも出来る。紫織にとって三つ歳の離れた彼女は誰よりも身近な――共働きで不在がちの両親よりも、ずっと身近な家族であり、自慢の姉だった。この望遠鏡も姉がテストで百点を取った御褒美に買ってもらったものだ。紫織には何処をどう触ればいいのかもわからなかったが、姉は既にもうこれを使いこなして、天体観測を楽しんでいる様だった。
こっそりそれを羨ましく思っていたら、姉が一緒に星を見ようと誘ってくれた。珍しく両親が今日は家にいるのだが、彼等も姉が説得してくれた。お陰でいつもならもう眠っている時間なのに、紫織はこうして大好きな姉と、綺麗な星空を見上げていられる。
本当にそれはもう特別な事で。
だから――
「ほんと、きれい、すごくきれい」