クロニクル·レギオン 4 英雄集結
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目次
第一章 箱根東西
第二章 嵐(とミスコン)の前ぶれ
第三章 学園祭、そして
第四章 リチャード推参
第五章 守護者応現
第六章 英名、集う
ダッシュエックス文庫DIGITAL
クロニクル・レギオン4
英雄集結
丈月 城
第一章
箱根東西
1
「さあヤン少佐。私のささやかな東京探検だが」
昨日、来日したばかりの男は意気揚々と言った。
日本人ではない。顔の彫りは深く、髪の色は明るい灰色。ただし、その生え際はだいぶ後退気味で、額もだいぶ広かった。
皇都東京でも特別にぎやかな新宿駅近くの、人混みにまぎれている。
もう一一月も末。本格的に冬がはじまりつつある。
「次はいよいよ待望の地、書店に行くとしよう。案内を頼む」
「ま、いいですけどね。でも、どうせだったらアポ取っていきません? 向こうの会社の広報あたりがよろこんで――かは知りませんけど、懇切丁寧に案内してくれますよ。オレも元帥閣下のお守りをしなくて済みます」
東方ローマ帝国軍、東日本駐留部隊所属の参謀アレクシス・ヤン。
駿河市から帰還して、今は東京での任務に従事している。
現在、彼が世話アテンドする要人の名はガイウス・ユリウス・カエサル。帝国の建国者にして、東アジア管区軍の総司令官である。
「おいおい。私はこれでも東洋随一の要人のはずだぞ。事前にカエサルの来訪を伝えて、暗殺者が待ちかまえていたらどうする?」
皇帝の語源となった男は遺憾そうに、しかし微量の茶目っ気と共に言う。
「いくら私でも〝暗殺で最期を迎える〟なんて悲劇、二度も繰りかえすのは御免こうむりたいのだがね」
「『ブルータス、おまえもか』のときは元老院が舞台でしたっけ?」
自らの死に際を冗談のタネにする覇者の隣で、ヤン参謀は肩をすくめる。
「そんな立場の方が軽々しく〝おしのび〟するのも、どうかと思いますけどね。それにその辺を言うなら」
最上級の上官へ批判的な視線を向けながらの言葉だった。
いかなるときも古代ローマの衣装をまとうカエサルだが、今日はちがう。
黒のピーコートに濃い灰色のツイードパンツ、