獅子姫に好機はない!
挿画:庄名泉石
デザイン:高橋忠彦(KOMEWORKS)
序章
ダンジョンのせまい通路には、包帯を全身に巻いたモンスター、マミーがひしめいていた。
「フレイムボルト!」
かん高い声の呪文詠唱が迷宮の石壁に響き、メイド服を着た少女の杖から、灼熱の火球が放たれる。
直撃を受けたマミーの一体が、炎に包まれ黒焦げになって倒れた。
「ジン王子、やりましたぁっ」
頭のイヌミミをピコピコさせて、メイドの少女クーンは喜ぶ。
背後に立っていた俺のほうをむいて、「ほめてくださいっ」というオーラを隠しきれずにうずうずしている。
俺はクーンの肩越しに、通路からこちら側の広間になだれこもうとしてくるマミーたちを見た。
棍棒みたいな太い腕を、我がメイドの頭に叩きつけんとしている。
「クーン、うかつだぞ」
俺はとっさに彼女の前に出て、右手に握っていた銀色の剣をふるう。
鋼の刃はうっすらとした白い光を帯びて、マミーの腕を両断した。
「はにゃあっ! す、すみませんっ」
「いいから援護をくれ」
「は、はいっ」
下級モンスターを相手になで斬りする俺の背後から、クーンはフレイムボルトの火球を放つ。
みるみるうちにマミーの群れは数を減らし、最後の一体となった。
「さすが俺たちの王子」
「うむ」
別の方向から来ていたモンスターをさばいていた二人の家臣、ロレンスとギドの声援を背に受けて、マミーへの間合いを詰める。
直後、鋭い殺気が俺の全身を貫いた。
反射的に防御の体勢を取ると、マミーの上半身が真っ二つに割れた。
炎を帯びた刀身が飛びだしてきて、俺の白銀の剣と交わる。
迷宮の通路に、鋼と鋼が打ち合う音が響き渡った。
炎がマミーの身体を焼きつくし、その背後に立つ、少女の姿を照らしだす。
左右に束ねて、なお腰まで伸ばした長い栗色の髪と、アイスブルーの瞳。
彩りの豊かな花を彷彿させる、可憐な容貌。
少女らしい丸みを帯びた身体つきと、豊満な双丘。
強く握れば折れてしまいそうなほど細い腕であるにもかかわらず、その剣撃は強烈であった。
一刀が生みだした太刀風によって俺の額は裂けて、一筋の血が流れる。
「レオナ=ブリュンヒルト……!」
「ジン=ラ