正直バカはラブコメほど甘くない青春に挑む
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CONTENTS
序章 正直バカと高嶺の花
一章 正直バカと変人少女たち
二章 正直バカと鏡の付喪神
三章 付喪能力と正倉院
四章 少女の笑顔と付喪神の笑顔
五章 水晶の世界と煩悩砕きの仏具
六章 食卓と古い鏡が見る夢
七章 弾き語られる物語と鏡の世界
終章 正直バカと真実の日々
ダッシュエックス文庫DIGITAL
正直バカはラブコメほど甘くない青春に挑む
慶野由志
序章 正直バカと高嶺の花
「……助かったわ春先君。意外と力強いのね貴方って」
昼休み中の人通りが多いざわざわとした学校の廊下で、クラスメイトの女子生徒――神楽琴葉は俺の顔を見上げながら軽く微笑み、落ち着いた声でそう言った。
神楽を背後から支える形で、俺たち二人は密着していた。初めて間近で見る彼女は、本当に目を奪われるほどに綺麗で――やや童顔なこと程度しか特徴がない男子高校生である俺こと春先真太郎は、返事することすら忘れ、思わず彼女に見入った。
大きくて宝石みたいな瞳。とても白く滑らかそうな肌。背まで届く、シャンプーの匂いがするさらさらの髪。それらの要素が織りなす、清楚で上品な容姿と雰囲気を持つ神楽のしっとりとした優雅な微笑みは、とても魅力的で美しい。
そもそもこれは、ほんの五秒前までは全く予期していなかった状況だった。
俺だって人並みの男子らしく、憧れのシチュエーションというものはある。例えば、大きくよろめいた可愛い女の子に、映画の主人公みたいに颯爽と手を伸ばし、しっかりと受け止めた上で「大丈夫か?」なんて声をかけるシーン。あれは死ぬまでに一回はやってみたいと常々思ってはいた。
けれど実際そんなシチュエーションに遭遇すると、格好つけるどころか、支えた腕に伝わる女の子の体温と、鮮烈すぎる髪の匂いで何もできなくなるなんて、考えもしなかった。
「あ、ああ。ええと、大丈夫か神楽?」
「ええ、貴方のおかげで擦り傷一つないわ」
つい先ほど転倒寸前になった神楽の身体を支えた腕を引っ込めて、俺はようやく締まらない声を発した。それに対し、神楽はやはり落ち着いた声でやんわりと応じた。
どこの学校でも、いわゆる憧れの的という女子生徒はいる。
大勢の中にいてもその一部として埋もれずに、発する輝きが人の目を惹きつ