孤高の精霊術士 ―強運無双な王都奪還物語―
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目 次
序 章 紫瞳の押しかけ使い魔
第1章 クーデター発生
第2章 世紀の大魔導師は皇子殿下
第3章 血と証
第4章 秘密の通路を駆け抜けろ
第5章 覚醒
最終章 黄金の獅子
ダッシュエックス文庫DIGITAL
孤高の精霊術士
―強運無双な王都奪還物語―
華散里
序章 紫瞳の押しかけ使い魔
「うっ、あぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!」
夕暮れ迫る森の中、その静寂を打ち破る悲鳴が辺りに木霊していた。
それは妖艶たる美女の悲鳴でもなく、可憐なる少女の悲鳴でもなく、泥にまみれ薄汚れた俺の断末魔にも似た悲鳴。
山の斜面を尻もち状態で、勢いよく滑落している真っ最中だ。山肌全体を覆うタールが滲む影響で、見た目以上によく滑る。
「ちょっとマジこれはヤバいというかぁぁぁぁぁッ!!」
とにかくこれは状況的に見て非常にまずい。
自力で止めようとしても山の斜面はタールによる油質のぬめりで、踵に力を入れたところで焼け石に水状態。
幸いなことに垂直落下ではないので即死する確率は低いだろうが、時折突き抜ける茂みの小枝で俺の全身はすっかり傷だらけだ。
餓鬼の頃、白く積もった雪に喜んで、死んだ親父特製のソリで村近くの山の斜面を滑り降りて遊んだ記憶が走馬灯のように脳裏に浮かぶ。
いや、本当に死んだら洒落にならないけど。
しかし今日の俺は厄日なんだろうか。そう思わずにはいられない。
旅に多少のハプニングはつきものと考えれば数分前までの俺は確かに順調だった。
(やっぱり抜け道なんて通るんじゃなかった!!)
今更後悔しても後の祭りにしかならないんだけど、その時の俺は早く首都に着いてしまいたいという気持ちばかりが先に立っていた。
目的地であるアイシャフの首都まであと少し。
急ぎ足ならば日暮れまでにどうにか辿り着けるかギリギリの距離にある小さな宿場町で、水だけ補給して首都へ急がなくてはと思っていたその時。
同じ水場で話す旅人達の声が耳に飛び込んできた。
この宿場町の裏の森から、首都へ続く近道があるらしい、と。
確かに街道はそれなりに整備もされていて、歩きやすい