神器繰刻のアイオーン
目次
プロパトール
序章
第一章 時の守護者
第二章 時の祝福
第三章 時空を侵す獣たち
間章 旧世代の時の守護者
終章
プロパトール
過去は変えられない。
その格言が、文字通り過去となって幾星霜。
人類は、災厄と引き替えに、限定的ながら時を操る力を手に入れた。
一七一八年に起こった、〈時空変遷アイオーンバガリー〉。
この日、人類は時空浸獣――通称バタフライという怪物を世界に招き入れることとなる。
だが同時に、一部の者だけが、〈イーコール神の血〉と呼ばれる力を得て、〈ブレス神的火花〉という現象を起こすに至った。
〈加速アクセル〉〈減速ストール〉〈未来フエイト〉〈過去トレース〉〈停止フリーズ〉に大別される五つのブレスによって、バタフライの撃退に成功する。
人々を無に至らしめるバタフライではあったが、ブレスの使い手は力を絶やすことなく血を繫いで対抗していた。
また、数十年毎に起こるようになった大磁界の発生は、強大なバタフライが顕現する危機ではあるが。
過去を変える好機でもあった。
大磁界は現代の人間を一時的に、過去へ送り込むことができることがわかったからである。
それが証明されて以降、各国の首脳たちは協力や敵対を繰り返しつつ、幾つもの悲劇をなかったことにしてきた。
第一次世界大戦や第二次世界大戦をはじめとした大戦争、疫病の蔓延、その他様々なことは修正され、正史現代においては存在していない。
同様の過ちを犯さないために、改変された幾多の大難については、外史として詳録が残存するのみだ。
大磁界が発生する度に、過去改変の権利を得る国際大会が国を挙げて開催される。
それが――〈暦の福アイオーン・エ音祭ヴアンジエル〉。
序章
来栖拓未の目の前に、自身の背丈を大きく超える蟻がいた。
拓未は中学卒業を間近に控えた学生であり、平均から見れば身長が大きい方だというのに、蟻はそれを優に超えている。
およそ一般的な蟻とは違っていた。世界最大の蟻は体長四センチのディノハリアリと言われているが、比較するのが馬鹿らしくなるほど巨体だ。車が二台通れる幅の並木道は、一匹の蟻だけで塞がれていた。
蟻の体長は、ゆうに五メートルはある。外皮は太陽の光