千の魔剣と盾の乙女 14
挿画:アシオ
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
序
ひとりの娘が、朽ちかけた塔の屋上から砂漠を眺めていた。
娘の立っている塔は星詠台と呼ばれている。とうの昔に滅んだ地下都市ゴリアス。その外れにそびえている建物で、星の動きを観測するためのものだ。
娘の年齢は十七、八といったところか。美しい面立ちをしているが、その表情からは感情らしきものがうかがえない。そして、娘のいでたちはあまりにも禍々しかった。
頭の左右で結んでいる白銀の髪から、真紅の角が二本伸びている。紅の瞳は血で染めあげたかのような昏さで、紫色の衣の上にまとっている赤と黒の鎧も、見る者に不吉な印象を与える造りだ。細い首を飾るトネリコの首環トルクだけが、どこか不似合いだった。
降り注ぐ夏の光は、砂の大地に陽炎をゆらめかせるほど強烈だったが、娘は眉ひとつ動かさず涼しげな顔をしている。奇妙なことに、彼女の肌にはわずかな汗も浮かんでいない。
この娘は、魔物に身体を乗っ取られているのだ。そのために、彼女の肉体は半ば仮死状態にあった。
娘の名をエリシア。彼女の身体を支配している魔物はケンコスという。ケンコスはエリシアの魂を抑えこみ、彼女の肉体の主導権をほぼ握っていた。
ほぼ、であって完全ではない。エリシアの魂は、いまもなお魔物の支配に抗っている。
何もしていないときはおとなしいが、たとえば人間を襲うときなどは、身体の動きが鈍くなるほどの激しい抵抗を見せた。
エリシアの魂を助けているのが、トネリコの首環トルクだ。妖精のつくったこの首環トルクは、ケンコスの力から彼女を守っている。
――面倒な身体だ。
ケンコスはそう思う。捨ててしまおうかと考えたことも一度や二度ではない。
もともとこの魔物がエリシアの身体を乗っ取ったのは、戦いに敗れて己の肉体を滅ぼされ、消耗しきっていたためだ。そのときのケンコスは、本来の力をまったく発揮できないほどに衰弱していた。
エリシアの身体を支配してから、四ヶ月ほどが過ぎている。
ケンコスは自身の力を回復させただけでなく、魔王バロールの魔鋼から力を引きだして、魔王以上の存在になりつつあった。彼にとって、エリシアの身体はもはや必要なものではない。
だが、ケンコ