千の魔剣と盾の乙女 15
挿画:アシオ
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
序
『この世のはじまり?』
不思議そうに首をひねった白銀の鱗の竜に、その少女は小さくうなずいた。星々の輝く夜空を見上げて、何ごとかを思いだすような表情で彼女は言う。
「ずうっと前、この地上から高く高く飛んで、あなたたちが虚空と呼ぶところへ出たことがあったでしょ。途方もなく広い暗闇の中に、たくさんの星が瞬いていた……」
風が吹いて、少女の金色の髪をゆるやかになびかせた。
「あの星たちは、すべて竜がなったもの。ホルプ、あなたはそう言ったわ」
ホルプと呼ばれた竜は、ゆっくりと首を縦に振った。
『その通りだ。竜は星より生まれ、やがて生まれ育った地から飛び立ち、虚空にて新たな星となる。まれに地上で生を終える者や、力が足りず星になれない者がいるが』
「その話を聞いてから、ずうっと不思議に思っていたことがあったの。最初の星は、どこから生まれたんだろう。最初の星が生まれるまでは、あの虚空は真っ暗闇だったのかなって」
『相変わらず、君はおもしろいことを考える』
竜の口元がかすかに歪む。笑ったのだ。少女はきょとんとした顔で竜を見上げている。
はじめて会ったときから、この金髪の少女は好奇心旺盛だった。目に映り、耳に聞こえる多くのものに強い興味を持ち、知りたがった。知らない道を歩くことに躊躇しなかった。その一方で、彼女は礼節をわきまえていた。相手を困らせるような無粋な詮索は一切しなかった。
ホルプは少女から視線を外し、冷たく澄みきった星空を眺める。
『知りあいから聞いた話だが……。この世のはじまりは一頭の竜だったそうだ。その竜がどこからきたのか、その竜が現れる前のこの世がどうなっていたのかは、誰も知らない。あらゆる神話がそうであるように、始原より前には何も存在しなかったのかもしれない』
「その竜が、虚空をつくったの?」
興味を惹かれたらしい。勢いこんで質問する少女に、竜はゆっくりと首を横に振る。
『つくったのではなく、虚空そのものとなった。そして、暗闇しかない虚空に数頭の竜が生まれた。その竜たちは星となり、それらの星々からまた新たな竜たちが生まれた。何千、何万年とその営みは繰り返され、虚空は星々の輝きで満たされ