剣刻の銀乙女 7
挿画:八坂ミナト
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
序章
それはヒース・ベルグラーノが剣刻戦争の主犯、クラウンを討ち破った日から、二週間ほど遡る。
――剣刻戦争は、大人が終わらせる。ルチルを、頼む――
カルロス・ヒネーテは、とある少年にそう告げたのだ。
彼は、荘厳な柱が並ぶ玄関ホールを歩いていた。
思えば、彼らと初めて顔を合わせた場所はここだった。
そのとき彼らの姫を罵倒した自分に、真っ直ぐな怒りをぶつけてきた。特に、銀色の少女と槍を持つ少年のそれは、円卓の騎士筆頭たるヒネーテですらたじろぐほどのものだった。
――実に、真っ直ぐな者たちだった。
誰をも疑わねばならない《剣刻》所持者でありながら、友情を結び、正しく怒りという感情を抱く。剣刻戦争の中で浮き彫りになった、ヒトの心の闇を乗り越えた者たちだ。
彼らが王に会ってくれたことを、ヒネーテは内心嬉しく思っていた。
それは隠されなければならない真実だ。
だが主が決して愚劣な国王ではなかったことを、知っていてほしかった。
そんな主君への報告のため、玄関ホールを抜けて大きな階段を上り、王の間の扉を開いたときだった。
「……なんだ?」
突然、周囲からの音が消えた。
先ほどまで三人の少年少女が暴れ回り、城門前ではヒネーテと騎士姫が《剣刻》を賭けて死闘を演じていたのだ。特に後者の方は、ヒネーテは逆賊として処刑されても文句が言えないほど強引なやり方をした。
当然、城の内も外も兵たちが慌ただしく駆け回り、王の真意を知らぬ貴族たちも状況を見定めようと殺気立っていたはずだ。
今まで聞こえていたそれらの喧噪が、なにかで遮られたように消えたのだ。
いや、それどころか人っ子ひとり見当たらない。
〈占刻使いオーメントーカー〉を含む衛兵が、常時十名以上配置されているはずの玄関ホールにも、自分が扉を開いた王の間にもだ。
――魔術か……。
自然と、腰の剣に手が伸びる。
国王は悪王として討たれる道を選んだ。それに付き従うヒネーテもまた、周囲から敵意と恨みを買うよう、それでいて周囲が従わざるを得ないように振る舞ってきた。そもそも、彼は剣刻戦争の原因である《剣刻》を四つも所持している。
命を狙われる心当たりなど、掃いて捨てるほどあ