イー·ヘブン
口絵・本文イラスト/るちえ
デザイン/アフターグロウ
序章
目が覚めると、俺は古い小屋にいた。
むき出しの木の床にボロボロの布を敷き、そのうえに汗だくで横になっていた。
部屋はこの1室のみで、窓にはガラスもなく、ただ壁に穴が空いているだけの状態だ。そこからは爽やかな朝の日差しがさし込んでいる。聞こえてくるのは小鳥の声だ。
壁にはランプが掛かっており、天井に何もないのを見ると、おそらく電気も来ていないのだろう。
「ここは……どこだ?」
見たところ、この小屋には俺しかいない。だから誰も聞いていなかったのだが、俺はそう口にせずにはいられなかった。
こんな小屋が我が家なはずがない。
しかし、だとすれば俺はどういった経緯でこの小屋に来たのだろうか?
俺は自分の身に何が起きたのかを、ゆっくりと思い返す。
「……?」
おかしい。昨日何があったのか、まるで思い出せない。
頭がズキズキと痛む。二日酔いか? いや、俺は酒など飲んだことはない。
昨日の記憶がない。それだけでも一大事なのだが、もっとマズイことがある。
「俺は……誰だ?」
昨日のことどころか、それ以前に自分のことが全く思い出せない。
自分は最初からこの小屋にいたわけではない。それはなんとなく分かっている。
俺はどこか別の場所から、この小屋に辿り着いたはずなのだ。確証はないが確信はある。
では、どこから? どうやって? どういう経緯で? その辺が丸っきり頭から抜け落ちている。それ以前に、自分の名前すら思い出せない。
完全な記憶喪失だ。「記憶喪失」という言葉は覚えているのに……。
言葉は覚えている。日本語だ。おそらく、というか間違いなく俺は日本人だ。しかし、日本がどういうところだったかもサッパリ思い出せない。
そもそも俺はどんな顔をしているのだろうか? ここには鏡もないので、見ることはかなわない。自分の体を見下ろすと、ボロ布をそのまま着ました、といった様な服装だった。
「……だめだ、サッパリ思い出せない。せめて自分の名前ぐらい知りたい。俺は何て名前なんだよ?」
……と、再び1人で喋る。俺ってこんなに独り言多かったっけ? それすらも思い出せない。
しかしそんな独り言に、何か