銀閃の戦乙女と封門の姫 6
挿画:美弥月いつか
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
序章
シャーロッテ・エレインララク・クァント=タンがフレイ・サルタールと初めて出会ったのは、いまから五年前。シャーロッテが九歳のときである。
まだ彼女の名前がシャーロッテ・エレインメイヴ・クァント=タンであったころの話だ。
彼女の誘拐事件から一ヶ月ほどが経った、ある夏の日のことである。
クァント=タンの南部には、一般にただ離宮と呼ばれる、貴族の避暑地がある。避暑地といっても、たいして暑さが変わるわけではなく、ただ豊かな森があるだけだ。
そこは主に、貴族たちが、大切な者や人目について欲しくない者を隔離するために用いられる、流刑地のような土地だった。
シャーロッテは後者、つまりあまり人目について欲しくない者のひとりであった。彼女を外交上の駒として利用しようとしたガァド王は、偶然の積み重ねによってその思惑を阻止され、当時、ひどく不機嫌だった。
メイヴ家は、そんな王の前から一時的にシャーロッテを引き離した。
それはシャーロッテにとって、幸いなことだった。
カイトとの出会いによってある決意を胸に秘めた彼女には、時間が必要だった。
多くのことを学ぶための時間である。シャーロッテは剣と魔法の修行に精を出し、さらに勉学に励んだ。幸いにして、教師には不足しなかった。離宮に流された王の側近たちが、シャーロッテの教師としてこっそりと名乗りを上げた。
彼らが中央に返り咲くためのコマとしてシャーロッテを利用しようとしていることは明らかだった。ギブ・アンド・テイクだ。
シャーロッテは気前よく空手形を出した。彼らは、いまの彼女に必要なものを持っている。ならばそれは、借金を背負ってでも手に入れるべきものだと考えた。
いま手に入る知識を、ちからを、貪欲に吸収した。
実際、彼らの多くは明晰な頭脳と豊富な知識の持ち主だった。宝の山がここにある、と彼女は思った。
それははたして、メイヴ家の思惑のうちだったのだろうか。
違うと思う。メイヴ家は、この地に集積された頭脳のことなど、これっぽっちも知らなかったに違いない。中央から弾かれた邪魔なもののことなど、歯牙にもかけていなかったに違いない。
それはメイ