赫竜王の盟約騎士 1
挿画:八坂ミナト
口絵漫画:あおなまさお
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
第一章 竜を憎み、狩る
「う、うああああこっちに来たぞ、逃げろおっ!」
男子生徒の悲鳴が上がり、ジルは小さく舌打ちを漏らした。
――ど素人が……。
それまでなんとか踏みこたえていた生徒たちも後ずさり、逃亡する者まで現れる。
彼らの前には、一体の異形がたたずんでいた。
見上げるほどに巨大なそれは、全長で五プロペに及ぶだろうか。巨体を覆うのは、熱した鉄のような赤の鱗だ。子馬くらいひと呑みにできそうな大きな顎の奥には、鋭く尖った牙がびっしりと並んでいる。
竜だ。
翼はなく、額からは斧のような突起じみた角が生えている。
振り下ろされた前足からは杭のような太い爪が伸びて、その下で赤い血だまりが広がっていた。
不用意に近づいた生徒がひとり、踏みつぶされたのだ。
ジルたちが制止する間もなかった。
ほんの数秒前まで意気揚々と声を上げていた仲間のひとりが、ものを言わぬ肉塊に変えられた。そこで生徒の大半は戦意を喪失していた。
逃げ惑うだけの生徒など敵対者ですらない。
餌だ。
狙う獲物を吟味するのか、あるいは娯楽としての狩猟を気取るのか、竜は縦に割れた金色の双眸を細めてそんな光景を見据える。
「くっ、どけよ!」
逃げようとする男子生徒のひとりが、すぐ隣の少女を突き倒す。
「――あ……っ、ま、待って、おいていかないで!」
派手に転倒した少女は声をあげるが、誰一人として見向きする者はいない。
誰かが食われれば、その分だけ遠くまで逃げられるのだ。当然の反応だろう。
「ひっ――」
そんな哀れな少女に、ギョロリと竜が目玉を向ける。
腰を抜かしたのか、足を痛めたのか、少女は地面でもがくだけで立ち上がることはできなかった。
声も出せずに震え上がる少女に、竜が大きな口を開いた。
――このまま行くと、全滅か。
もう少し様子を見たかったが、ジルが諦めて短剣を抜いたときだった。
「〈クラウストラ〉――衝牙ヴイブラートス!」
ジルが動くより早く、飛び出す影があった。
竜の牙を止めるように、光でできた白い魔方陣が紡がれる。