精霊医は勇者の変態を癒せるのか!? 2
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目次
序章 旅のまにまに
第一章 街と勇者
第二章 毒と勇者
第三章 尻と勇者
第四章 本と勇者
第五章 噓と勇者
終章 夢はつれづれ
ダッシュエックス文庫DIGITAL
精霊医は勇者の変態を癒せるのか!? 2
神秋昌史
【序章 旅のまにまに】
「にゃはははは。なーんか、あったかいねーぇ」
そんな世にもとろけるような声が、実にたまらん位置から聞こえてくるわけで。
俺はもともと、夜が嫌いじゃない。夢を見るのが好きだったってのもある。
だけど今は、怖い。夜が怖い。今が怖い。
なにせ、
「さむーい夜は、あったかーくしないとねー。今は夏だけどねー、んふふふふーん」
横たわる俺の上に乗って、いいや寝そべって!
真っ赤な顔のテトリアが、ぐでぐでにぐでりきっているからだ!
体が動かない。痺れてるのと似てるけど、感覚はある。自分のものじゃない何かが、体内に重く沈殿してる感じだ。
かてて加えて、揺るぎない酔っぱらいに好き放題されちゃってる事実。
い、嫌すぎる! 逃げ出したい! くそぉテトリアのお尻やわらかいなぁ!
「あったかーいのは、なんでかなーん? それは人肌だからかなーん?」
「んぎぎぎ……っ!」
「正解はねぇ、んっとねぇー。あ、このピーナッツすっごいおいしー。やはははは」
まぁ楽しそうに笑いやがって。正解は何なんだよ!? 言え、せめて言え!
人事不省寸前ではないかとすら思えるこの女の子、信じがたいことにお医者さんだ。
さらに信じがたいことに、今まさしく治療の真っ最中。
いや詳しくは、治療を行うための診察、検査研究段階ってことらしいんだけど。
俺の口の中にある、最悪な苦みと甘み。つい十分前のテトリアを思い出してみよう。
『リドくんリドくん! 今日はだいじょーぶだよ、なんと魔力検査薬が完全に新型なのです! 固まりやすくなる果汁のシロップも混ぜて、フルーティかつスウィーティなの!』
なぜ信じた、俺っ……! 果糖ごときでどうにかなる味か!
大自然の甘さが加わって、味覚の暴風雨だわ! 固まりやすくする意味もわかん