サクラ×サク 04 滅愛セレナーデ
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目次
1 僕の全てを君にやる YES JESUS YES
2 誰もここから出てはならぬ LABYRINTH
3 永遠の二人 BLOOD GIVEN
あとがき
ダッシュエックス文庫DIGITAL
サクラ×サク 04
滅愛セレナーデ
十文字 青
1 僕の全てを君にやる YES JESUS YES
「どうしてもわからないな」
禁衣姿の亞璃簾宮太華子がほっそりした指で顎をつまみ、抑揚の少ない帝国の人語で静かに呟いた。
「なぜあの公国人はそうまでして死にたいんだ? 私を手こずらせた優秀な軍略家だ。降伏すれば下民となるが、私が臣民に取り立ててやると言っている。いったい何が不満なのか」
ウェスホーン城市の焼け落ちた主城前の広場に引き立てられ、ひざまずかされているデスティニア公国軍の軍人三十余名は皆、士官以上だ。半数ほどが負傷していて、中には血塗れの重傷者もいる。
第二公軍司令ゼス・ボッツ大将も右肩に被弾し、顔面には火傷を負っていた。
ボッツ大将はウェスホーン城市の城門が破られても屈せず、主城を拠点として帝国軍に抵抗した。主城が陥落すると、部隊を小分けにして城市内に散らばらせ、それでいて巧みに連携させて、徹底抗戦を貫いた。人間のように気配りができない機士は掃討戦が苦手だ。大将はその弱点を衝いて、実に十日間も城市から一歩も出ることなく戦い抜いたのだ。
城門が突破されるまでの采配は、粘り強く堅実、とにかく隙が少ないという印象だったが、それ以後は一変した。帝国軍が捕らえた城市民を人質にして投降を迫っても受け容れず、実際に城市民の命を奪ってみせてもそれは変わらなかった。
通用しないとなると、帝国軍としてはその手は使えない。おそらく、人質が通じない、と帝国側に思わせることが大将の狙いで、そのためにあえて堪え忍んだのだろう。
大将の目論見は成功し、帝国軍は武力で公国軍の将兵を狩り立てるしかなくなった。亞璃簾宮太華子の五百十七侵攻団に、二百六、三百二十五、四百二十一各侵攻団が加わって行われた狩りは、困難を極めた。
それでも、亞璃簾宮太華子が機士ではなく軍士を駆使し、大将の居場所を突き止めた時点で、勝負は決した