SとSの不埒な同盟 2
この本は縦書きでレイアウトされています。
ダッシュエックス文庫DIGITAL
SとSの不埒な同盟 2
野村美月
CONTENTS
序章的な、なにか 不埒で迷夢な報告会
第一話 鑑賞部推奨、不埒なデート。またはお似合いの二人。
第二話 不埒な誘惑、不埒な告白、不埒な……
第三話 俺たちは、今日も不埒だ
おまけ 続・美園千冬の日記~わたしが見た面倒くさいひとたち
――わたしは、あなたが嫌いよ、真田くん。
以前、ルチアが笑みを含んだ眼差しで俺を見つめて、そんなことを言っていた。
あれは梅雨になる前の頃。
ルチアがバイオリンの天使と呼び愛でていた小笠原忍に失恋し、俺はフルートの妖精と呼び惚れ込んでいた美園千冬を振った直後で。
俺たちは、放課後の美術室の窓辺で向かい合わせに座り、ルチアは膝に立てたスケッチブックに絵を描き、俺は二人のあいだに置いた机で、粘土をわしわしこねていた。
大きな窓から、やわらかな初夏の光が射し込んでいて、うつむくルチアの豊かな金色の髪と、長い金色のまつげを、あざやかにきらめかせていた。
大理石のように白くすべらかな顔にはめ込まれたラピスラズリの瞳や、形の良い眉や鼻、凜とした唇は、どれも一流の芸術家がノミを振るった彫像のように完璧で、ルチア自身がこの世にたったひとつしかない、貴重な芸術品のようだった。
その完璧な顔をチラ見しながら、
(淡々としているが、こいつも小笠原に失恋した日は、自分の部屋にこもって、一人で失恋ソングなんぞを聴きながら、泣いたりしたのかもしれんな。こいつは強いから、人前では傷ついていないふりをしてみせるんだろうが)
などと考えていたとき、ふいにルチアが俺のほうを見て、クールで辛辣な唇に、理知的な笑みをたたえて言ったのだ。
――わたしは、あなたが嫌いよ、真田くん。だって、あなたは、わたしが見抜いてほしくないことを見抜くから。わたしは誇り高いSよ。一人でこっそり傷をなめているだなんて、思われたくないわ。
まるでルチアに心を読まれたような気がしてドキリとする俺に、ラピスラズリの瞳をいたずらっぽくきらめかせて、ルチアはさらに言った。
――けど、あなたがわたしに対してエスパーになれるよう