戦華の舞姫 戦華ノ姫君ハ汚レナイ
目次
序章
第一章 二人の花嫁
第二章 来訪者
第三章 夢と失望
第四章 花嫁候補な舞姫たち
終章
その日、少年は女神と出逢った。
背中まで流れる燃えるような灼髪。
強い意思を持った真紅の瞳。
窮屈そうな胸鎧と、それとは対照的に引き締まった腰。
機動性重視なのか、最低限の装甲しかついていない短めなスカートと、レッグアーマーから見える健康的な太もも。
一枚の名画にも見える少女は、新米国王の彼に、祝福の花束ではなく、華奢な体には不釣り合いな大剣を突きつけていた。
「初めましてアルトス王。出会って早々悪いけど、あんたには死んでもらうわ!」
微笑みながら、
彼女が涼やかに、歌うように声を弾かせる。
粉塵吹き荒ぶこの場に一瞬、爽やかな風を錯覚してしまう凜とした振る舞い。
いつまでも見ていたい気持ちはあるが、今の状況と少年の立場がそれを許さない。
今、彼の国アルトスは隣国のフレイア軍、二〇〇〇に攻められている最中なのだから。
「お前〝舞姫デイーヴア〟か?」
紅眼、灼髪に大剣を持つ美少女。
「ふふっ、どうかしら。もしそうだとしたら、何だって言うの?」
「? だからどっちなんだよ……」
ぼんやり呟く少年の瞳は、向けられる剣先よりも、その凜と響く声音と、気の強そうな真紅の眼差しに吸い寄せられる。
「まあ、どっちでもいいじゃない。どうせあんたは、すぐに死ぬんだから!」
少女が地を蹴ると同時、まるで優美に舞うかのような動作で大剣を振りかぶると、
「その首……」
――ここにきてようやく、ハッと少年は我に返る。
だがそれでは遅い――遅すぎた。
「もらった!」
頭上から少女の身丈ほどあろう大剣が、勝利の祝福を奏でる刃鳴りを上げ襲い掛かる。
眼前に迫る恐怖に、思わずゴクリと固唾を吞み込んだ。
はたして。
それを見ている者がいれば、誰もが彼の首が飛ぶ結末を思い描いただろう……だが、
ギィン!
――大剣は少年の体に当たる刹那、不可視な何かによって軌道をずらされた。