異世界魔法は遅れてる!5
目次
序章 三人目の勇者
第一章 サーディアス連合へ
第二章 呼び出しの縁
第三章 新月の夜に
第四章 月を狩る
終章
イラスト/himesuz
序章 三人目の勇者
今日も、地平線の向こう側から、黒い海が押し寄せてくる。黒い海の正体は、生き物の群れだ。それは人々の敵であり、何もかもを破壊し尽くそうとする悪意の塊でもある。
つまりは、魔族。
土と、わずかながらの緑しかない褐色の荒野が、魔族のまとう黒い力に染められていく。
布に染料が少しずつ染みていくように、じわり、じわりと。
連合北部、ノウルフォークの大荒野を一望できる南の丘から、連合の勇者である朽葉初美は、しばらくその様子を眺めていた。
ふと時折、北部特有の乾いた涼しい風が、緩やかに吹きつけてくる。それと共に伝わるのは、肌を刺すような痺れにも似た感覚だ。その正体は、向かって来る殺気に確かに入り混じる魔族たちの焦燥だろう。あの黒い魔族の海から、これまでになかった必死さが空気を伝って感じられる。
あの魔族たちは、先の戦いで劣勢に追い込まれたのだ。他の部隊からも見捨てられ、もう取り返しがつかないほどの窮地に立っている。だからいま、自分たちの名誉を取り戻し、確かな結果を出そうと、死にもの狂いで襲いかかって来ているのだ。
機が、戦いの機運が着々と迫ってきていることを鋭敏に感じ取り、初美は背後を顧みる。
すぐ後ろ、森の中に身を隠すようにいるのは、呼び出されたときからの付き合いの仲間と、連合の兵士たちだ。
右後ろに控えるは、連合は一国ラルシームの武術師『ガイアス・フォーバーン』、左後ろに控えるは自治州きっての女魔法使い『セルフィ・フィッティニー』。そして自身の真後ろで瞑想を行っているかのように静かに跪く、連合宗主国はミアーゼンが王子であり剣士である『ヴァイツァー・ラーヒューゼン』。
いずれも三国に名が通った、そしてその名に恥じぬほどの腕前を持つ猛者たちである。実力のほども証明済みだ。これまで四度あった魔族たちとの戦いで、何度も背を預け、何度も助け合って来たのだから。
合図のように頷くと、ガイアスは豪快な笑みを浮かべ胸板を叩き、セルフィは静かに首肯。ヴァイツァーはいつものように、弁えているというように忠義顔を貼り付け