終末世界のスペルブレイカー
口絵・本文イラスト/新堂アラタ
デザイン/百足屋ユウコ+ナカムラナナフシ(ムシカゴグラフィクス)
編集/庄司智
序章
「きゃあああああああああああ!!」
テント裏に併設されているバスルームから、少女の悲鳴がこだました。
考えるよりも先に体が動き、アハトはテントを飛び出した。そのままバスルームへ急行する。
「どうしたユスティ!? 敵か!?」
プレハブの扉を開いて脱衣所に突入し、バスルームのカーテンを引き開けると、金髪の少女が床にしりもちをついていた。湯をしたたらせている金髪から垣間見える耳は、人間とは違って尖っている。
このエルフの少女を守ること──それが、アハトの任務だった。
視線を走らせ、バスルーム内を確認する。特に変わった様子はない。窓も内鍵が閉められており、侵入者がそこから逃げた、とは考えにくい。
「何があったんだ?」
足元で震えている少女──ユスティに、アハトはたずねた。
「あ、あれ……」
ユスティは顔をそむけながら、部屋の隅のほうを指さした。
蜘蛛が一匹、壁に張りついていた。蜘蛛、と言っても、ほんの豆粒くらいの大きさで、注意深く見なければ気づかないようなものだった。
「──こいつが怖くて悲鳴をあげたの?」
ユスティはぶんぶん頭を縦に振る。目をぎゅっとつむって、がたがたと震えている。
アハトは一気に脱力した。追手に襲われたわけではないのか。
指で蜘蛛をつまむと、アハトは窓を開け、外に逃がしてあげた。
「ほら、これでもう大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます」ユスティはふうっと息を吐くと、立ち上がって頭を下げた。「わたし、蜘蛛がすごく苦手で──」
と、ユスティは自分の体とアハトの顔を交互に見つめた。
アハトはこのとき初めて、ユスティが一糸まとわぬ姿であるということに気づいた。
思わず、その美しい裸体に見とれ、言葉をなくす。
一瞬の、間。
そして、
「きゃああああああああああああああああああああああああああ!!」
ユスティが悲鳴を上げたのと、アハトがバスルームを飛び出したのは同時だった。
「アハトのエッチ!!」
石鹼、風呂桶、シャンプーの容器など、バスルームに存在するあらゆるものが背後から襲ってくる。
「仕方ないだろ! 任務優先だ!」
走りながら叫ぶ。
そ