紙透トオルの汚れなき世界
口絵・本文イラスト/ののの
デザイン/團夢見(イメージジャック)
第一章
「ちょっと世界を滅ぼしに行ってくる」
深夜0時、居間でこたつに浸かりながら少女漫画を読んでいる俺に向かって、兄貴は言った。今年に入ってこのセリフを聞くのは五回目だ。
「うん? 頑張って。あ、用事が済んだらコンビニでアイス買ってきてよ。ハーゲンダッソのバニラかストロベリー。兄貴も好きなの選んでいいからさ」
兄貴に小銭入れを渡そうとして、俺は啞然とした。
「え、そのカッコで行くの? ……死ぬよ?」
黒のパーカーに黒のチノパンというカラスルックにも一家言あるものの、まずはその防寒性の低さに突っ込みを入れる。
「一応、下にヒートテッ……魔装を装備しているから問題ない。……多分」
蚊の鳴くような声でぼそぼそ呟く兄貴。
「いやいや、外は氷点下だよ。風邪ひくって。この前俺があげたコートはどうしたの?」
「……あの強化魔装は敵の攻撃を受けて消滅した」
兄貴はきまりが悪そうに目を泳がせた。
もうボロボロにしたのかよ。あげてまだ二ヵ月も経ってないぞ。外でどんな活動をしているのかは知らないけど、人からもらったものは大切に扱ってほしい。この前出かけた時は靴が泥だらけだったから、たぶん近所の花街公園で遊んでいるのだろうけど。
「仕方ないなあ。じゃあ、俺のダウンジャケットをあげるよ。ただし、今度は大事に着てよ」
一ヵ月前に通販で買った青色のダウンジャケットを引っ張り出し、それに合うピンクのマフラーも一緒に手渡した。
恩着せがましく言ったものの、ダウンジャケットは中国製のパチもんで、数回袖を通しただけで羽毛ではなくポリエステルが脇からはみ出した粗悪品だ。返品期間が過ぎていたので処分に困っていたが、この際、有効利用しよう。
「恩に着る」
と微妙にシャレになっている兄貴の言葉に少なからず良心が痛んだが、まあどうせすぐボロボロになるんだ。それならパチもんでも構わないか。
「……ところで、マフラーってどう巻くんだ?」
俺は呆れ顔にならないよう、にっこり笑って兄貴にマフラーを巻いてあげた。
ああ、男にマフラーを巻くのって虚しいね。
「じゃあ、行ってくる」
「なるべく早く帰ってきてよ。親父が帰ってきた時、兄貴がいないと心配するからさ」
まあ、親父が心配しているの