FAIRYTAIL 大江戸フェアリーテイル
イラスト/真島ヒロ
デザイン/Blue in Green
第一章
時は大江戸。
長きに亘り続いた戦乱の時代も終わり、将軍が東の地に幕府を開いてより早百五十年。人々は太平の日々を謳歌していた。中でも将軍のおわす街、魔マ俱グ野ノには国中からさまざまな人々が集まり、国一番の繁栄を誇っている。
諸国の大名たちの屋敷が建ち並び、彼らや将軍に仕える侍が街を守る。通りに出れば、華やかな商店が軒を連ね、町人の威勢のいい声が響く。
そんな魔俱野の街の一角に、古い長屋があった。
屋根の瓦にお尻を隠して微笑む妖精の飾りをつけた長屋。妖精長屋と呼ばれるそこからは、毎日毎日騒がしい声が聞こえてくる。
そう、こんなふうに────
ちゅん、ちゅんちゅん……。
外からスズメの鳴き声が聞こえてくる。
初夏の明るい光が格子窓から差し込む、妖精長屋の一室。四畳半の狭く小さな部屋だったが、畳やふすまにはきちんと手入れがされており、ふすまの穴を修繕した桜の形の色紙に住人のかわいらしい人柄が見てとれる。
「ん……もう、朝……?」
部屋の住人である町娘のルーシィが寝返りを打つと、まぶたを閉じたままでもまぶしいと思う光を感じた。ゆっくりと起き上がる。
少し寝癖がついてはねた金髪ブロンドがさらりと肩に落ちる。しどけなく乱れた襦袢の胸元から、まだ幼さを残したかわいらしい顔立ちとは不釣り合いに豊かな胸が覗いた。目をこすりながら、それを隠すように合わせ目を直すと衝立の向こうから、声が聞こえてきた。
「がつがつがつ……うめえな、この漬物!」
「ぽり……オイラにはちょっとしょっぱいかも」
聞き慣れた声にルーシィは顔をしかめた。衝立から顔を出す。すると一人と一匹が朝ご飯の真っ最中であった。
「あたしの部屋ーっ!」
思わず叫ぶと、彼らは驚く様子もなくルーシィの方を向いた。
「よお、ルーシィ」
一人はほっぺたに米つぶをつけて屈託なく笑う桜色の髪の少年。名をナツという。ルーシィの隣に住んでいる素浪人で、朗らかで明るく元気のよさがとりえだ。
「早くしないと全部食べちゃうよ~」
一匹はアジの干物を口にくわえ、白い翼を背中に生やした青い猫。ハッピー。ナツの友人で、ちょっととぼけた性格