妄想少女は魔法を使えない
挿画:オード
デザイン:ナカムラナナフシ
(ムシカゴグラフィクス)
◆四月二十四日(金) 午後五時過ぎ
世界にはまだ見ぬ何かが眠っている。
親父はその何かを求めて母親を引き連れ、俺を置き去りにして冒険三昧だ。たまに連絡してきたかと思ったら、
『母さんに密輸団から奪った財宝の換金を頼んでな。帰り道の途中でいろいろあって女の子を保護したんだ。いいか? お前を訪ねてその子がやってくるだろう。助けてやれ』
一方的にわけのわからないことを言う。
『いい男っていうのは、女を助けるものだ』
とか言っていきなり電話が切れたし。なんだかなあ。
俺の居場所は親父と違ってありきたりだ。
私立華陵学園高等部、一年F組の教室内。放課後。クラスメイトがそこかしこにいる。みんなただの学生だ。もちろん俺もそう。
白状すれば、ありきたりじゃない親父にどこかで憧れている。
『信じるなら、貫き通せ。笑われても、バカにされてもだ。それが男の生き様ってもんだ』
トレジャーハンターという怪しい職業を生業にしている親父の言葉だ。幼い頃の俺は「ああたしかに、それが出来たらかっこいいよな」って思った。
方向性を間違えている気はしつつ、今日も俺は右手に包帯を巻いて、分厚い黒の革表紙のノートに妄想を描いていた。
「雛河くん、絵上手いね」
顔も名前も覚えのない女子が声をかけてきた。
どう反応すればいいのかわからなくて、困る。何せ話したことがない。
「……えっと」
「おーい! 早く行こうぜ」
廊下から別のクラスメイトの声が聞こえてきた。
「ねっ、雛河くんもカラオケ行かない? 部活してない子たちみんなで行くんだけど」
女子が目を輝かせて俺を見てきた。お世辞抜きに可愛い子だった。
「……ごめん、俺はいいや」
「えーっ」
残念そうな顔をした女子のカバンを男子が引っ張っていく。クラスメイトたちもぞろぞろと教室を出ていった。
「見るからに中二病だろ、声かけるなよ。アニソンしか歌わねえぜきっと」
聞こえてるっての。
まあ俺が中二病患者だと思われていることくらい、自覚している。包帯巻いてるし。
ぼっちでいたいというわけじゃない。ただ、率先して輪に入りたいと思わないだけだ。
長い間そうだったし、今更それは変えられそうにない。
現に高校生活