彼女が捕手になった理由
目次
1 白倉柏シニア
2 本摩敬一
3 阿瀬新助
4 梶原沙月
終章
挿画:さくらねこ
デザイン:ナカムラナナフシ(ムシカゴグラフィクス)
1 白倉柏シニア
公園の一角に作られた簡素なグラウンドに、絶好調の太陽は燦々とした日差しを提供していた。
うだるような暑さに、ショートの本摩敬一は思わず息をつく。投球の合間を見て帽子をとり、ぐいっと額の汗をユニフォームで拭う。すでにユニフォーム自体も汗でぐっしょりになっているから、あまり意味はないが気晴らしにはなる。
ピッチャーの司城龍宏が振りかぶったところで姿勢を落とし、守備体勢をとる。二塁からするするとリードを広げるランナーをちらりと見やりながら、来るかもしれない打球に備えた。
残念ながら、杞憂で終わってしまったわけだが。
パァン、と景気のいい音を鳴らしてキャッチャーのミットに吸い込まれていった白球に、しかし審判は大きく首を振るだけだった。再び、はぁ、と息がこぼれる。敬一だけでなく、グラウンドに散らばっているナイン全員のため息が一致したような気がした。
果たして何個目のフォアボールだろうか。二桁を越えたあたりから数えるのをやめたから、よく覚えていないが、少なくともこの回で三個目ということは間違いない。
バックネット裏にかけられたスコアボードに目を走らせる。滋ノ樹シニア対白倉柏シニアの練習試合。七回表、ワンアウト満塁、得点は7対6で白倉柏シニアがリード。このまま司城が抑えてくれれば、試合終了なのだが、どうもことはそう上手く運んでくれなさそうだ。
敬一はもう一度帽子をとって額の汗を気持ち拭ったあと、審判にタイムの合図を送って、ピッチャーへと歩み寄っていった。つられて、サードとセカンドが寄ってこようとしたが、手で制して止めた。ファーストは暑さでしなだれていて、何もせずとも寄ってこなかった。流石に入りたての中学一年生でフル出場はきつかったと見える。
対照的に、一番きつそうなピッチャーの司城は疲れを見せず、淡々と返されたボールを受け取っていた。敬一は軽く笑いを浮かべながら、口元をグローブで隠すこともなく話しかける。
「リュウ、もうど真ん中放っていけばいいよ。お前の球威なら抑えられる」
司城は、ぐるんぐるんと右肩をまわす。暑さなんて感じていないようなその元気なそぶりに、敬一はか