神話伝説の英雄の異世界譚 2
目次
序章
第一章 大帝都
第二章 黒皇子
第三章 南方異変
第四章 独眼竜
第五章 軍神の謀略
終章
序章
炎天に晒された砂漠は、いくつもの悲鳴が折り重なることで混濁している。
罵声、断末魔、馬蹄が轟くその場所は、様々な感情が入り交じる戦場だ。
剣戟が鳴り響く度に、無数の死体が生み出され怨嗟が広がっていく。
恨めしそうに生者を睨みつける死者の濁った眼は、あの世へ誘う死神のようだ。
そんな地獄の様相を呈している戦場の中、他とは違う空気が流れている場所があった。
まるで別の空間に存在しているかのように、そこは周りの喧噪から隔絶されている。
そんな張り詰めた空気の中では――二人の男が対峙していた。
一人は白銀の剣を持つ眼帯をつけた少年、対するは薄い紫色の肌で大剣を持つ男だ。
「ここまできたというのに、また邪魔をする者が現れるか……」
男は汗で張りついた前髪を鬱陶しそうに搔き上げる。
隠れていた額が現れ、埋め込まれた紫の小結晶が外部に晒された。
「つくづく私という男はついていないようだ」
男の視線の先では、少年が油断しているのかと思うほど隙だらけの構えで立っている。けれど、男は感じ取っていた。少年が纏う強大な闘気を覚っていた。
幾星霜の戦いを経ても届くことはなく、そこから更に研鑽を積んだ者だけが手に入れられる覇気――それをまさか、この年若い少年が放つとは驚嘆に値するものだろう。
「くくっ、ははははっ……天賦の才というやつかッ!」
これほどの猛士が自分よりも遥かに年下だという事実に、男は笑いを抑えきれなかった。
「とことん殺し合おうではないか――なあ、〝独眼竜〟! 最後に立っていた者が勝者だ! わかりやすくていいだろう?」
男は乾いた唇を三日月形に割ってから身体を捻った。すると、身の丈ほどもある大剣の切っ先が砂に埋まる。
それを一瞥した少年が肩をすくめて――、
「本当に魔族ゾロスタという人種には心底呆れてしまうね。僕は殺し合いに興味はないんだ」
しかし、言葉とは裏腹に、壮絶な笑みを少年は浮かべていた。
年若い少年には不釣り合いな表情――それを見て男は寒気に襲われる。
「でも、今の僕は少々苛立ちを覚えている。ある