リーングラードの学び舎より 2
目次
序章
第一章
第二章
第三章
第四章
第五章
番外編 山より来る者
序章
リーングラード学園も初夏に入ると、不思議な光景が見られます。
森の付近で緑色の発光体がゆらゆらと宙を舞う、幽玄で幻想的な光景。それは一時の涼を与えるだけではなく、別の感慨も浮かばせます。
「夜光蝶――もう、そんな時期でしたか」
採点の手を止め、教員宅の二階から眺める景色は新しい季節の訪れを予感させました。
そんな、夏の風物詩として親しまれている夜光蝶ですが自分は近寄りたくありませんね。
それは夜光蝶の知られざる一面にあります。
衛生害虫だったりするんですよね。
蠅や蚊、そして、戸締りを怠ると容赦なく侵入してくる黒いの等の衛生環境を悪くする虫の仲間です。それらに比べると見た目が綺麗な分だけ夜光蝶はマシでしょう。
しかし、一箇所に集まっているところを見ると妙に落ち着きません。
「あんなに群生しているとなると、死骸でもあるんでしょうか」
夜光蝶は死体の匂いを好みます。
夏を代表する昆虫として愛されている一方で感染症を広める一因でもあるのですから、外見が綺麗だと得ですね。処分されずに済むんですから。
いつまでも蝶を眺めている暇もありません。自分は窓から離れ、椅子に座り、引き出しから羊皮紙の束を取り出しました。
一ヶ月前、メルサラが持ってきた資料。
授業と治療の合間に何度も目を通してきましたが、やはり問題は変わりません。
「つまるところ問題は一点です」
貴族院の妨害。
夜光蝶に知られていない側面があるように、この義務教育計画にも教師にすら知らされていない側面があります。
バカ王曰く、義務教育計画は貴族院の持つ権利を剝奪するための計画でした。
貴族院の政策ミスが内紛をより凄惨にした過去があり、もう一度の台頭を防ぐために権利を奪い、暗躍の撲滅を図り、弱体化させているところです。それでも貴族院は今計画を妨害するために試練を加えました。どこまでも国の衰弱に熱心な奴らです、衛生害虫なんて言葉はまさに奴らのことを指すのでしょう。いえ、見た目は醜悪なのでただの害虫です。
憤りはゴミ箱に捨て、再確認するように紙面の一文を指で撫でました。
「義務教育計画