異世界迷宮の最深部を目指そう 4
目次
1.ラウラヴィア国の新しい物語
2.報われない君が為に
3.再会
4.ギルドの簡単なお仕事
5.三十層の守護者ガーデイアン
6.最強の剣士
7.そして、崩れる
イラスト/鵜飼沙樹
1.ラウラヴィア国の新しい物語
――誓った……? 何を……?
ゆっくりと目を開け、身体を起こす。そして、その重い頭を動かして、周囲を確認する。
「ここは……?」
記憶にない場所だった。木造の狭い個室に、最低限の家具だけがある。開け放たれた窓が一つあって、そこから涼しい風が入り込んでくる。
簡素だが落ち着く部屋……そう思った。
そんな部屋の中に一人の男がいた。
精悍な顔つきの男が、数少ない家具の椅子に座っている。名前は確か――パリンクロン。
そうだ。彼は僕の命の恩人のパリンクロン・レガシィだ。
「おっ? 起きたな、カナミ。丁度いい。おまえの妹も起きたところだ。案内するぜ」
目を覚ました僕を見て、パリンクロンは手に持っていた本を閉じ、親しげに僕の肩を叩いたあと、部屋の外に出ていく。
案内すると言われ、僕は寝ていたベッドから飛び起き、それについていこうとする。
そのとき、身体が硬直する。
配線を間違えたかのような、人形の手足を逆にしたかのような、不快な違和感を覚えた。
――何かがおかしい。
ただ、そのまとわりつく違和感と共に、清々しい解放感も同時にあった。心にぽっかりと穴が開いたような感覚だ。
大切な何かを間違えたような気がする。大事なことを忘れたような気がする。
けど、そのおかげで、身体が軽くなったような気もする。そんな不思議な感覚。
「カナミ! 早く来いって!」
「あ、あぁ! わかった、パリンクロン!」
しかし、パリンクロンの急かす声によって、その感覚は消える。
命の恩人を待たせてはいけないと思い、深く考え込まずに部屋から出た。
そして、外の廊下を見て、ここがどこであるかを思い出す。
ここはギルド『エピックシーカー』の本拠だ。
先ほどの部屋はギルドにある医務室で、そこで僕は休息していたのだ。
起きたとき、なぜそれに気づけなかったのか、不思議でならない。
しかし、不思議がってばかりもいられない。