最下位覇王の無双支配 1
目次
序章1 世界樹
序章2 銀色の記憶
第一章 白銀の剣姫と最初の試練
第二章 破壊の角笛ギヤラルホルンと反逆の爆炎
第三章 女王とメイドと最下位
第四章 反乱 神を蝕む毒蛇ヨルムンガンド
第五章 王の時間
終章1 月の海
終章2 覇王ロード・オブ杯・ザ・ロード
序章1 世界樹
西暦二◯四四年、八月二十五日。
その日、世界の一切は変革の時を迎えた。
《ミズガル・ラシル現界》が発生したのである。
地球の全域に根を張るほどの超巨大樹《ミズガル・ラシル》が、突如として太平洋上に出現した。物理法則に全く従わず、科学技術の粋を以ってしても理解の及ばないその現象は、世界中の人間を大きく混乱させた。
頂上部は宇宙に届くというその大樹は、一つの大陸を覆い尽くすほどの膨大な枝葉から、地球上の大気にそれまで観測されていなかった未知の物質を放出し始めた。
《魔導素マナ》
巨大樹から発生するその物質は、ごく一部の人間に大きな影響を及ぼした。魔導素を体内に取り込むことによって、特殊な能力に目覚める者が現れたのである。
それらの能力者は、身体の一部にルーン文字の刻印が現れることから、こう呼ばれた。
新たな進化の時を迎え、選ばれし能力を持つ人間たち――《ルーンズ》と。
序章2 銀色の記憶
1
何の危険もない、いわば小旅行のようなものになるはずだった。
鷹城柊矢は十歳になったばかりの少年だが、妹と二人だけで、八王子から船橋まで電車で向かうことを、さして難しいことだと思ってはいなかった。
日頃兄妹で遠出をすることは少ないが、柊矢はスマートフォンで電車の時刻表や乗り換えの手順を調べることができたし、迷うということはまずない。隣に座って時折話しかけてくる妹の桃花も、兄を信頼しきって笑顔を絶やさなかった。
「お兄ちゃん、二人でお出かけ楽しいね。桃花、すっごくうれしいよ」
「お祖母ちゃん、今日は具合がいいんだってさ。おれたちだけでもお見舞いに行ったら、きっと喜んでくれるよ」
彼ら兄妹は、両親を幼い頃に亡くしていた。身寄りは母方の祖母くらいしかなく、その祖母も数年前から病気で体調を崩していたため、二人は施設に預けられて育った。
施設の許可を得て、柊矢たちは二人だけで定期