骸骨騎士様、只今異世界へお出掛け中 I
目次
序章
第一章 異世界へお出掛け
第二章 流離う白銀の傭兵
第三章 エルフ族のアリアン
第四章 エルフ族奪還作戦
終章
番外編 ラキの行商記1
一台の馬車が、あまり整備されていない街道をかなりの速度で駆け抜けて行く。
その横を護衛の兵達が馬に乗って並走し、馬蹄の音を響かせている。時々道端に落ちている石に馬車の車輪が乗り上げ、車体が跳ね上がっては大きな音を立てる。
馬車の車体の後ろにある覗き窓から、一人の使用人風の女性が街道の後方をそっと窺う。
右手に河原が広がり、その先にシプルト川の水面が傾きかけた日の光に照らされ、夕暮れ時の色を乗せて静かに煌めいていた。左手にはなだらかな丘が見え、遠くに動物の群れが移動しているのが見える。街道の側には灌木などが所々に茂みを作り、影を長く地面に落とし始めていた。
辺りには馬車の車輪と馬の蹄の音が響くのみで、他には特に異常は見当たらない。
しかし、馬車の中にも外で並走する護衛の兵にも重苦しい沈黙が降りていた。それは先程までこの一行に異常事態が訪れていたからに他ならない。
ローデン王国の貴族であるルビエルテ家の家紋があしらわれた馬車。その車内にはルビエルテ家の息女であるローレン・ラーライア・ドゥ・ルビエルテが青く浮かない表情をして、車窓に流れる風景を覗いていた。
栗色をした長い髪はゆるくうねり、緊張と不安の為かいつもの艶がなく精彩を欠いている。少し細めの顔立ちと長い睫毛に、揺れる薄茶の瞳が儚げな印象を漂わせていた。
十六歳のその少女が身に纏っているのは淡い水色の絹織の豪奢なドレスで、車窓から入る西日が今はその色を茜色に染めている。
彼女がルビエルテ家の名代として出席したディエント家主催による夜会。その帰りの旅程で一行は盗賊による待ち伏せにあったのだ。見えるだけで二十名以上はいた盗賊の追撃を躱す為、殿を受け持った護衛兵九名は今ではもう後方に消え、その姿を見る事はできない。
残ったのは馬車と並走を続ける五名の兵と一名の騎士だけになってしまっている。
使用人風の女性はルビエルテ家の息女ローレンに仕える侍女で名をリタ・ファレン、赤毛の短めの髪と意志の強そうな緑色の瞳が特徴的な女性で、ローレンの隣に静かに控えながらも、不安そうな彼女の手を取って