詐欺師キッドの英雄演武 1
目次
一.我が愛すべきこの稼業
二.預言の英雄
三.詐欺師の初対面メソッド
四.キッドとユカイな『仲間』たち
五.魔女の計略
六.英雄の資格
七.栄光を求めしニセモノ
八.あらかじめ予定された結末
終幕
おたくには『希望』ってやつがあるかい?
『希望』。そいつは生きる道を照らす光にもなれば、地獄へ引きずり込む重力にもなりうる、とても曖昧で厄介な概念。
おれはずっと、ひと様が持ってる『希望』を弄んで生きてきた。
そして罰を受けちまった。ものの見事にね。
これはおれの贖罪を込めた懺悔であり、『希望』を弄んだ一人の男と七つの世界を巡る、ちょいとした悲劇の物語、ってとこ。あ、でも、身構えて聞く必要はないよ。
『悲劇』っていうのは、あくまで語り手であるおれの主観に過ぎないもの。
ぶっちゃけ、他人の不幸話ほど笑えるものもないしね。
だからこの話が悲劇トラジエデイとなるか、喜劇コメデイとなるかは、語り手ではなく、聞き手のおたくが決めることさ。どんな感想を抱こうが、おれは構いやしない。
一人のしがない語り部として、最後までご拝聴いただけることを望むだけだよ。
観客のいない芝居ほど締まらないものもない。だろ?
さて、前口上はここでおしまい。そろそろ始めるとしましょうかね。
こいつは噓にまみれた綻びだらけの英雄譚。
――『希望』を騙りに堕とす、悪童キツドの話さ。
人間は見栄を張る生き物だ。
言葉によって自らを飾り立て、権威や肩書きで相手を威嚇し、文明社会という奇々怪々なパワーバランスに満ちた生態系で熾烈な生存競争を繰り広げる。
この世で最も愚かで、滑稽で、なお愛おしい生き物、人間。
私も、目の前の着飾った紳士淑女も、あそこで演説をぶっている男もみんなみんな、そんな愚かな生き物の一員である。
「どうです、この構図! この色彩! 見事なものでしょ! 先週のオークションで競り落とした、前期ルマーニ派を代表する傑作、『静寂の湖畔』です! ほら、この繊細な筆使いの美しさといったら!」
社交パーティの主催者である成金男爵がなにやら宣っている。
ここは成金男爵の屋敷の最上階に設えられた一八〇坪の社交広間。
豪奢なテーブルに高級料理