侵蝕レコンキスタ
目次
PROLOGUE 崩壊
CHAPTER.1 邂逅
CHAPTER.2 方舟
CHAPTER.3 転機
CHAPTER.4 覚醒
EPILOGUE 兆候
「みんな死んでしまえばいい」
よく晴れた初夏の昼下がり。
オフィス街の一画にある閑散とした噴水公園のベンチに、若いサラリーマンの青年が天を仰いでもたれかかっていた。
傍目から見て、その様は非常に気だるげでだらしがない。
散歩中の老人や子連れの母親といった通りすがりの何人かが、眉を顰めながら不躾な視線を投げかけるものの、青年の方は一向に気にする様子もない。人目をはばかるのも億劫といった感じだった。
この青年、常日頃からこのような振舞いが目立つというわけではない。
むしろ普段は温厚で真面目な性格で知られており、この日だけが例外中の例外と言えた。
「はあ……俺が一体何したっつーんだよ?」
二年も付き合っていた彼女に唐突に別れ話を切り出されたのが今朝の事。
ろくな話し合いもままならないまま出社の時間を迎え、そこで上司に突然言い渡されたのが炎上案件の火消し役としての出張辞令。
泣きっ面に蜂とばかりに災難が続いた挙句、更にどこかで財布を落としたのに気付いたのがつい先程。お陰で昼食すら食いっぱぐれる始末。
そんな些細な拍子だった。それまで青年の謹厳実直さを支えていたものがぽきりと音を立てて折れてしまい、こうして仕事にも戻らず現在に至っている。
その日何度目か分からないため息と共に、青年はぼやく。
「……こんなクソみたいな世界、いっそ壊れちまわねーかな?」
それはほんの軽い気持ちで呟いた、ささやかな愚痴の一言でしかなかった。
ところが、まるで青年のその言葉に呼応するかの如く、にわかに彼方からただならない喧騒が聞こえ始める。
「……?」
近くで人身事故でも起きたのだろうか。
そう思ってベンチから腰を上げた青年は、ふと向けた視線の先に信じられない光景を目にすることになる。
「な、何だありゃ……」
遠くで膨れ上がる、キノコ雲のような巨大な何か。
たとえるなら街中に突如発生した霞の塊、あるいは入道雲とでも言うべき奇妙な現象が、青年の眼前で徐々に肥大化する動きを見せていた。
音も光も衝撃