神話伝説の英雄の異世界譚 1
目次
序章
第一章 出会い
第二章 片鱗
第三章 覚醒
第四章 軍神乙女
第五章 軍神の目覚め
終章
イラスト/ミユキルリア
序章
少年は歓声に包まれていた。
どの歓声にも喜びが滲み、祝福の言葉が溢れている。
宮殿広場を埋め尽くす人々――その顔には何の杞憂もない笑みがあった。
民衆の視線を独占するのは、露台バルコニーに立っている少年だ。
一時は滅亡寸前まで追い詰められていた国が、いまでは中央大陸ソレイユの覇者と呼ばれるまでに至った。
これも全て王を傍で支え続け、絶望と困難な状況を乗り越えて、幾多の戦いを勝利に導いた少年の功績であろう。
歓声に応えるように、少年は手を一度だけ振って、その場をあとにする。
少年が去って露台が無人となっても、喝采が止むことはなかった。
これから街は、しばらく眠らなくなる。
戦争によって崩れた城壁の修理が遅れようとも、破壊された家屋があろうとも、飽きることのない祭りが毎日のように続いていくのだ。
大陸の覇者――前人未到の偉業を成し遂げたのだから。
少年は城内に戻り、露台と玉座のあいだを繫げる通路を歩いていた。
汚れ一つない白壁に挟まれた廊下には、弾力のある深紅の絨毯が隙間なく敷かれている。
そこを黙々と歩いていた少年の前に、一人の青年が先を遮るように現れた。
「……本当に戻るのか?」
憂いた顔を見せる青年に、少年は躊躇いを見せた後に頷く。
「……うん。名残惜しいけど戻らないとね」
青年――この国の王にこんな口の利き方ができるのは、最初で最後、少年ただ一人であろう。他の者が王に対してこのように喋りかけたなら、不敬罪で死刑か、それに近い罰を受けるのは間違いない。しかし、二人は気心の知れた仲であることから、王は笑みを浮かべるだけで、少年を咎めることはしなかった。
「君にはここにずっといてほしいと思っていたんだが……我が国の英雄だからな。それ相応の地位だって用意する。この先、国は安定期を迎えるだろう。何不自由なく過ごせる――それでも帰るのか?」
「それなら余計に僕はいないほうがいい。この国は内政を重視するんだろう? これからは僕のような武官の時代じゃない。優秀な文官が必要になってくる。無駄飯食いな