落ちこぼれ剣姫と闘神学院の教官
目次
序章
第1章 剣の姫の候補たち
第2章 戦乙女は修行中
第3章 夏の前哨大会
第4章 神を降す剣
終章
イラスト/珈琲猫
黒板の上でチョークがカッ、カッと軽快な音を立てる。
「闘神ランブレイスは人間と神々が共に暮らしていた時代、人々を守った戦いの神だ。今でもその名は広く知られ、信仰の対象となっている。ランブレイス闘神学院なんかは、その最たる例だな」
シズマは教科書から顔を上げた。
講義室はガランとして静かだ。普段は五十人ほどの生徒が座っているのだが、今はほぼ無人である。
窓からは日差しと初夏の風が入ってきて、なんとも心地好い。教壇に立つシズマも、思わずあくびが出そうになる。
そんな最前列のど真ん中。教壇から一番目につく席で、一人の女生徒がすうすうと気持ち良さそうに寝息を立てていた。
「寝るな、リノア」
シズマは無表情のまま、チョークを投げつけた。
「ふにゃっ!?」
女生徒が飛び上がり、椅子から転げ落ちた。ドッタンバッタンと派手な音を立てて机の陰に消える。
床にぶつけたのだろう。彼女はお尻をさすりながら立ち上がった。
「痛いし~。もう、なにすんのよ!」
「居眠りしてるお前が悪い」
「だって退屈なんだもん! なんでこんな話、長々と聞かなきゃいけないワケ?」
部屋にいるのはシズマとこの女生徒の二人だけだ。個別指導と言えば聞こえはいいが、要するに補習である。
にもかかわらず、堂々と居眠りをしていた彼女、リノア・カッシュは、ランブレイス闘神学院でも有名な落ちこぼれだった。
「文句言っても仕方ないだろ。続けるぞ。そのランブレイスだが、半神半人の剣士レイアードに討たれて姿を消した。傷を癒すため、神々の世界に戻ったという説が有力だ」
リノアが机にばたっと突っ伏した。そして、聞くことを拒否するように両手で耳をふさぐ。
「だから寝るなっつうの」
再びシズマの手がしなり、チョークが飛んだ。今度は二本だ。が、リノアはすばやく身を起こすと、両手で一本ずつ、いとも簡単にチョークをつかみ取った。
「へっへーん。同じ手は食わないし」
「アホ」
「ふえっ!?」
得意満面のリノアに向けて三本目を投げつける。
あわてふためくリノ