アルテミジアの嗜血礼賛
挿画:kauto
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
目次
序章
第一話「二年一組・名和芽衣花(B型)」
第二話「二年一組・島宮千郷(セイレーン)」
第三話「二年一組・古島藤真林(A型)と二年一組・都築御幸(AB型)」
第四話「二年一組・榛原浩一郎(O型)」
あとがき
序章
「素朴で枯れた風味の奥に、意外と深みが隠れている……きっと、秘めた恋をしているわね。情熱が煮詰められて、臓腑を揺さぶるよう……とても濃厚」
犠牲者の白い首筋から細い牙を引き抜いて、少女は唇の端に血の筋を細く残したまま、陶然とつぶやいた。宵の空をうつろに見上げる目に、恍惚とした熱が宿っている。頬から首筋にかけて朱に染まった肌は、少女の内に生じる高ぶりをひしひしと伝える。
浩一郎は、その光景を前に立ち尽くすほかない。
首筋を走る寒気は、晩秋の夜の冷え込みのせいか、それとも、目の前の光景に対する恐れゆえか。
ふだんより少し遅いだけだった。夜はまだ深くもなく、何事かの起こるはずもない、ごく凡庸な秋の一夜の帰り道。
その真ん中に、彼女は忽然と闖入してきた。
降りそそぐ月明かりにたゆたう長い金色の髪は、上質の筆で描き分けられたかのように細くたおやか。陶磁めいてゆるやかな曲面を描く顔立ちは、驚くほどに端正だ。一見して、声をかけることさえ憚られる。近寄りがたい気配が、彼女の佇む一帯を満たしていた。
彼女の腕には、ぐったりとした女性が抱えられている。そのうなじから二筋の血が細くしたたり、地面に落ちる。生きてはいるようだが、青ざめて生気はない。
「とはいえ、せいぜい拾いものの域を出ないわね。気まぐれの粗雑な吸血では、しょせんその程度かしら」
玲瓏とした声を響かせて、少女はゆったりとした仕草で、失神した女性を道路脇に横たえた。そうして、あらためて、浩一郎の方へと注意を向けた。
「血の一滴は命の一滴、ていねいに身も心も支度を整えて、至上の一口を味わうのでなくては。でなければ、嗜血鬼サン・サヴアランの名が廃るというもの」
銀色の月光のもと、なお真紅に輝く瞳が、浩一郎を射る。宵闇に浮かぶ細面の笑みは、凍りついたような白皙。
「あなたが、ハイバラ、コウイチロウ、ね」
わずかに言いにくそうに、少女は彼の名を呼んだ。彼がうな