アフティピトス戦記
Illust. ねつき
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目次
序章 辞令
第一章 親衛隊
第二章 敗走
第三章 解毒
第四章 絶望の中の光
第五章 王国の逆襲
終章 帰還報告
あとがき
序章 辞令
乾いた土を踏む蹄の音が、陽光で暖められた風とともに吹きこんでくる。
重営倉の鉄格子の中、アフティピトス王国陸軍リデル・チュダック3等兵曹は石畳の上で胡座をかきながら、ぼんやりと外の音を聞いていた。
現在、営倉に入れられている兵士は、リデルひとりだけである。看守の任務に就いている兵は営倉の外におり、鉄格子のはまった小さな窓から流れこんでくる音を聞くぐらいしかやることがなかった。
「暇だな」
リデルは誰もいない空間に向かってひとりつぶやく。営倉に入れられて五日目になるが、三日目くらいから独り言が増えてきた。
最初は休暇だと思ってのんびりしていたが、さすがに寝るのも休むのも飽きてきている。それに、軽営倉と違って重営倉には寝具がないので、固い石畳の上に横にならねばならない。言うまでもなく寝心地は最悪である。日課である鍛錬を一通り済ましてしまえば、本当にやることがないのだ。
「誰か本でも差し入れてくれればいいのに」
そうこぼしながら、それは望み薄だろうなと自分で思う。
ちょっとした軍律違反で軽営倉に入る者は珍しくない。軽営倉は寝具もあり食事も通常の配給と変わらず、入ってもせいぜい三日程度で出してもらえるため、兵士たちの間では「別荘」などと呼ばれていた。軽営倉にいる間は外出の自由がない代わりに、厳しい訓練や口うるさい上官からも解放される。さほど重い懲罰とは考えられていなかった。
しかし、重営倉は違う。重営倉には寝具もなく、食事は一日に一度、最低限の物しか与えられない。営倉入りの期間も最大で一ヶ月と長期に及ぶ。劣悪な環境なので、自殺を防ぐためにベルトなどは取り上げられる。重営倉に入れられた兵士の中には体を壊したり、精神のバランスを崩す者もいる。厳しい懲罰ゆえ、重営倉入りの処分を受ける兵士は稀であった。
そういうわけで、重営倉入りを命じられるような兵士は、例外なく上官に睨まれる。
上官の不興を買う危険を冒してまで、重営倉に入れられているたかだか3等兵曹に肩入れする者はいない。リデルはそう思っていた。
不快な冷たさの