純潔なる武装乙女の守護鎧神
挿画:谷 裕司
デザイン:木緒なち(KOMEWORKS)
高橋忠彦(KOMEWORKS)
序章
――それは、軍司誉の元服の儀前日の出来事だった。
『俺、――ちゃんと里を守るよ! 絶対に誰も傷つけさせない……どんな奴にでも勝てるっ、俺と一緒になら!』
迫り来る異形の怪物を前に一歩も引かず、誉は己の力量を過大評価して言った。
どうしても戦いたかった。
どうしても守りたかった。
どうしても、鎧われたかった。
〝その人〟に、己を認めてもらうために。
『俺こそ、――ちゃんと一緒になるのに相応しいって、これで認めてもらえる! 俺こそが、――ちゃんと一番上手に戦えるんだって、わかってもらえる!』
その言葉通り、誉は獅子奮迅の働きを見せた。
一騎当千たる軍司兵たちも手を焼く異形の怪物を、切り払い、薙ぎ倒し、押し潰した。
最強だった。
誉に勝る男は、今の里にはいなかった。
官能的な勝利の味に、誉は雄叫びを上げ続けた。
何度も叫んだ。
何度も喘いだ。
何度も何度も達した。
〝その人〟も、己と同じくよろこんでくれていると疑う必要もなかった。
しかし……。
誉も、〝その人〟も、その日たくさんのものを失った。
大切なものも失った。
なくしてはいけない、とてもとても大切な――
第一章 歪領域デイストバウンド・東京フロンティア
1
「にーさまにーさま。都会ってなんて素晴らしいんでしょうっ」
透き通るような長い銀髪を振り乱し、軍司操は兄の誉に抱きついた。
紅色の瞳を輝かせて見つめる先にあったのは、二十四時間営業のスーパー銭湯。操は誉の腕を取り、銭湯に向かってぐいぐいと引っ張る。
今年十二歳になる少女にとって都会のなにが素晴らしいのかと思えば、朝風呂に入れることらしい。
「待て操。俺たちは先を急がなければならないんだぞ? この町での住まいまであとほんの少し……世話になるかたへの挨拶も――」
言い切る前に、誉は操に腕を引かれて三十センチほどの身長差を埋められる。幼いながらも整った容姿の妹の顔が目の前に来た。
「にーさま。みさおたち、ゆうべは入浴してません」
「そうだな」
旅程に遅れが出て、この町に辿り着くため夜通し走