竜騎士の飛槍烈戦 2
挿画:みわべさくら
デザイン:BEE‐PEE
目次
序章 私は竜騎士
第一章 騎士は誠実ではいられない
第二章 空を飛べたら
第三章 それぞれ自分の戦いを
終章 ほんの少しだけ
あとがき
序章 私は竜騎士
水桶に手を入れてみると、冷たさがぴりぴりと指先を刺してきた。
秋が深まりつつある時期とあって、井戸で汲んできたばかりの水はひどく冷たい。だが今の彼女にはそれが心地良く、精神を引き締めてくれるような気がした。
時刻はまだ早朝、鳥たちが欠伸をしながら巣から這い出した頃合いである。
このエデッサ王立竜騎士学院においても、こんな朝早くから起き出す人間はあまりいない。
「ほら、行くぞ。早く来ないか」
だが、彼女は眠気をまったく感じさせない溌剌とした声で後ろを振り返った。
金髪を高く結い上げ、猫を思わせる吊り上がり気味の碧眼が印象的な少女である。
彼女の名はクリスティン・ロウィーナ・ハルゴット。ハルゴットとはこのエデッサを治める王家の家名で、クリスはこの国の第三王女だ。
同時に、王国の守護の要たる竜騎士の候補生でもある。
「ふわあい……」
そのクリスに続くもう一人の少女が、欠伸をかみ殺しながら返事をした。
こちらのウルリカはクリスの侍女にして補助者、すなわち騎乗時の補佐を行う係だ。とはいえ朝早くから主に叩き起こされたせいか、眼鏡の奥の目は未だ眠たげに細められている。
「いつも思うんですけど……もうちょっと寝せてくれてもいいんじゃないですかね……」
「何を言うか、私は竜騎士だ。立派な竜騎士になるためには一刻たりとも無駄にできん」
「はいはい……」
二人はようやく顔を出した朝日を横目にしばし歩いて、ある建物の前で足を止めた。
ここ竜騎士学院は、文字通り竜に乗って戦う騎士――竜騎士の養成校だ。
であるからして学内には校舎や学生寮のほか、当然ながら竜たちの暮らす竜舎もある。二人がやってきたのはそのうちのひとつだ。
「はーい、今鍵開けますよ……っと」
竜舎の中はいくつかの個室に仕切られており、天井が高く広々として、竜ならぬ人間が住んでもなかなか快適そうな空間だった。それに竜は牛馬ほどには藁も必要としないし、異臭もあまりない。通路の片隅に積まれた餌入れの巨大さが竜と人間の体格差を思い知らせてくるくらいだ