祓魔科教官の補習授業 2 優等生は振り向かない
挿画:NOCO
デザイン:ナカムラナナフシ
(ムシカゴグラフィクス)
序章1
午前一時。とある山中。大きな満月が山林の木々を照らし出していた。
『――こちらチーム弐、宮野。魔禍魂デモン2匹を確認した。奈落アビスは周囲に発見できず』
通信機から聞こえてくる声に、きたか、と岡澤は緊張で乾いた唇を舐めた。
乙種B級祓魔技能士の資格を持つ彼は、チーム壱のリーダーであると同時に今回の作戦の責任者でもある。警官になって十余年、特別災害事案対策隊に配属され、魔禍魂デモン退治の任務について七年、初めての大役だった。
「魔禍魂デモンの大きさ、外観について報告を」
『共に体長三・五メートル、体高一・七メートルってところか。四足歩行。眼はおよそ一〇。口は三つ四つ』
音声による描写を聞くだけで、その姿を鮮明に思い描くことができる。実物、写真、映像で何度となく見てきたのだ。
死者のような土気色の肌。各パーツは人間のものでありながら、大きさと位置と数がデタラメという、おぞましい外見。多くは多足歩行で、足の長い亀のような姿勢で移動する。とはいえ亀とは異なり運動能力は極めて高い。
そして好物は人間。
それが魔禍魂デモン――『奈落アビス』という次元の裂け目から姿を現す、怪物だ。
『魔禍魂デモン1は表皮が硬化しているな。装甲型だと思われる。魔禍魂デモン2は見た目ノーマルだが再生特性持ちの可能性があるな。あと背中に触手。確認できるだけで三本。攻撃範囲が広そうだ』
「移動速度は?」
『およそ時速6キロ』
人間の早足くらいか。無論これが上限ではないだろうが、回り込んだり迎撃の陣形を整える余裕は十分にある。
少し考え、岡澤は判断を下す。
「山頂のポイントHで挟撃する。到着したら、攻撃をしかけて足止めしろ。うちのチームが背後から急襲する」
『了解。およそ五分で誘導できる』
そして、通信機の向こうから小さく笑うような声が聞こえてきた。
「どうした?」
『いや、岡澤が立派にリーダーこなしてるなと思ってねえ。成長したもんだな』
チーム弐を率いる宮野とは同期の間柄だ。《身体強化》を操る咒禁師ウイズで、魔禍魂デモン退治の経験は岡澤より豊富。今回は新米リーダーのサポートという役回りである。どちらかといえばお堅く慎重な岡澤と違って陽気で楽観的な気性なのだが