王国の継承者
挿画:魔太郎
デザイン:BEE―PEE
目次
序章 「挑戦する者」
一章 邂逅、そして
二章 受け継ぐ者
三章 巨獣襲来、そして
四章 招かれざる客人
五章 天上の庭に招かれし者
六章 グリューネワルト
終章 見知らぬ空
序章 「挑戦する者」
地を這う流星のような一撃だった。
少年はその一撃が盾で受け止められたあと、素早く後ずさった。彼の元いた場所に落ちてきたのは鉄槌のような強撃。当たれば身体が真っ二つになっていてもおかしくない。だが少年は割れた床板を見ても怖じけるわけにはいかなかった。
相手は世界最強の戦士だ。魔物最強の存在である竜ですら、彼の前では畏まるというほどの剣の腕を謳われた、伝説上の存在といっていい。対峙することすら恐怖に値するが、それでも、怯えて震えている時間は一秒たりとも惜しい。
「魔王」と戦うことができるのは、幸運なのだ。
おそらく、負けるかもしれないなどと考えた瞬間、少年の身体は二つに叩き折られてしまうだろう。油断、慢心、躊躇、恐怖……あらゆることが敗北の原因となる。ただ、心を真っ白にしてこの剣とともに在れば良い。その剣は、振るうたびに赤い光の粒が刀身からこぼれ落ちる。
「魔王」と呼ばれる男の威厳オーラは、その体躯を何倍にも巨大に見せた。少年はかすかに舌打ちする。どこに切り込んでも倒れる未来が見えないのだ。相手がどこまでも巨大に、自分がどこまでも卑小に思えてくる。
『やみくもに攻めたら、勝てると思ってるの?』
耳元で声がした。可愛らしい少女の声だ。その少女はバルトが何を考えているのか、すっかり見抜いてしまっている。
少年は小さく首を振った。こめかみを汗が伝い落ちていく。
「……やみくもじゃねぇ。余裕が、ねぇんだよ」
ふぅ、とため息をつく気配がした。
『馬鹿ね。未来視を使いなさい。三倍撃を使いなさい。時止めを使いなさい。あなたには選択肢がたくさんあるのよ、バルト。なのにあなたは何も使っていない』
「使えるならとっくに使ってる……!」
「バルト」
低い声で名を呼ばれ、少年は反射的に身をすくめた。
呼んだのは、向き合う相手だ。この男には、少女の声は聞こえていない。
白髪に浅黒い肌、全身を包むのは黒と金の甲冑。二